本書が指摘する「二重基準」にも注目したい。ドイツやバイデン政権時のアメリカに顕著だが、「ロシアは非難するがイスラエルは擁護する」という欧米の姿勢が、グローバルサウス諸国を失望させているという。
特に、イスラエル擁護を戦後のアイデンティティとしてきたドイツの姿勢は、国際的に〈ベルリンは二重基準を適用しているという非難が渦巻いている〉ほどだった。
もちろん、ロシアとイスラエルでは事情が違い、後者はハマスのテロ攻撃によって現在の状況が始まっている。だからドイツのみならず、当初欧米諸国はイスラエル擁護の姿勢を取った。
だが、民間人、子供をも標的にし、軍事目標だけでなく生活インフラをことごとく破壊するイスラエルのやり方に、欧米諸国の要人も「忌まわしい」「耐え難い」「嫌悪感」を口にするようになった。
かのドイツでさえ、メルツ首相が〈「(イスラエルの行動を)もはや理解しない」と語った〉ほどだ。
ICCと東京裁判、安倍総理の関係
だがトランプはICC破壊の意志を持ち続け、ネタニヤフへの逮捕状でついに敵意を解き放った。
〈二〇二五年一月のトランプのホワイトハウス復帰に先立ち、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長は、裁判所が「存立の危機」に直面していると警鐘を鳴らしていた〉が、赤根氏自身が制裁を受けることになったのは冒頭の通りである。
本書にはわずかな記述しかないが、ICCには東京裁判に対する反省も反映されている。詳しくは筑波大学教授の東野篤子氏が「the Letter」に書いているが、こちらを参考に、本書の補足的に付け加えておきたい。
https://higashinoatsuko.theletter.jp/posts/d9858040-56e0-4bd0-9804-f5f87e1aeaea
事後法による「勝者の裁き」であるとの誹りを払拭できない東京裁判(とドイツを対象としたニュルンベルク裁判)の反省こそが、常設の国際的な裁判所であるICC設立の背景にある。
日本がICCに加盟したのは2007年の第一次安倍政権期。安倍元総理は特に第一次政権時代に「戦後レジームからの脱却」を掲げた。
これは反安倍勢力が批判したように「戦前回帰」を企図するものではなく、今では「戦後体制の中での日本の役割を変えるものだった」と説明し得るだろう。ICC加盟も同様で、日本は法の支配を守る列に自ら並んだ。
そこには、「勝者の裁きによって無念の思いが募った東京裁判が象徴する戦後レジームを、法の価値に則って克服する」思いを見ることもできる。
確かにICCは万能ではない。非加盟国を裁くことはできないため、例えば中国や北朝鮮に対して直接の影響を及ぼすことは難しい。しかし締結国が被害を受ければ責任を問うことはできる。ネタニヤフの例はまさにそれで、パレスチナが加盟しているからこそ逮捕状を出せたのだ。
また、本書ではICCは手出しできないものの、国連がウイグルでの中国の行状を記録し続けていることも記されている。今この時も、できる限りの方法で戦っている人たちがいる。
国内外で為政者が人道に反する罪を犯す可能性が極めて低い現在の日本にとって、ICCは重んじこそすれ、敵視・軽視すべき理由はないだろう。
ましてや現在、そのトップを張るのは日本人女性であり、プーチンから指名手配されても、トランプから制裁を受けても一歩も引く気はない。
プーチンから指名手配された際には、「私が死んでも裁判官の代わりはいる」と発言。「法曹関係者は誰でもそう思っている」とのことだが、今どきの言葉で言う「覚悟ガンギマリ」姿勢は制裁を受けても崩れてはいない。
外交的に難しい状況にあればこそ、国民から「その意気やよし!」の声を届けたい。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

