【読書亡羊』石破・トランプ会談を語るならこの本を読め!  山口航『日米首脳会談』(中公新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


首脳同士の相性か「お膳立て」か

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トランプ大統領は歴代大統領の中でも「自分たちが提供するコスト」に敏感な人物だ。応分のコストを払っているからこそ得られてきたであろう名誉のようなものには関心がない。
(そもそも、問題も多くあったが国際秩序を守ろうとして傷ついてきた面もあるアメリカに敬意を払う人が、国際社会にそう多くはないのも実情だが)

これに対し、かねて「対米従属の解消」「地位協定の改定」を持論としてきた石破茂氏が、現在、日本の総理の座にいることはどのような意味を持つのか。外務省としても、日本の多くの専門家たちも「石破総理は、今その持論を持ち出すべきではない」との考えが大半だろう。

中国の脅威がかつてなく増し、ロシアはウクライナに侵攻し、北朝鮮が核戦力を増強する姿勢を見せている現在、日米関係を揺るがせるわけにはいかない。

それがわかっているからこそ、トランプ大統領も石破総理との個人的な相性は別として、ひとまずは事を荒立てない形で日米首脳会談を終えたに違いない。外務省を中心に、そうした「お膳立て」が徹底されたこともうかがえる。本書が指摘するように、日米首脳会談が首脳二人の相性だけで進むものではないことを示しているのだ。

今回のトランプ―石破の日米首脳会談では、保守派の一部から激しい石破批判が浴びせられている。「ファーストネームで呼び合っていないのは、うまく行かなかった証拠」とする言説もあるが、率直に言って表層的なものというほかない。お互いの呼び名一つとっても、本書を読めば歴史的にどのようなケースが存在してきたかがわかる。

日米関係についてより本質的な議論をするための高い視座を、本書は与えてくれる。まずは読んでから語ろう。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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