防衛省の総指定件数は429件
省庁が外局を持っていることは多い。たとえば国交省は、気象庁や海上保安庁という外局を持っている。秘密指定権限を有する機関は、内閣官房、外務省、警察庁、公安調査庁、海上保安庁などの20機関しかない。異動時に特定秘密情報の適正評価が問題となる省庁はわずかだ。
2023年末時点の特定秘密情報の総指定件数は751件、そのうち防衛省が429件と格段に多い。また、防衛装備庁は内閣官房(116件)や警察庁(55件)ほどではないが、22件と多くの特定秘密情報を保有している。さらに、特定秘密情報保護法の対象ではないが、米軍との「特定防衛秘密」の対象物も取り扱う。
防衛省は他の省庁と違い、例外的に本省と外局の両方が「特秘」の資格が必要だ。また防衛省内部にある防衛大学校や防衛研究所といった機関に異動しても防衛省内の異動なので資格が切れることはない。防衛装備庁への異動、防衛装備庁からの出戻り、そのときのみ資格が切れてしまうのだ。
自衛隊員不足は深刻であり、優秀な自衛隊員が100人単位で懲戒を受けて自衛隊を去れば、国防能力に大きな穴があく。それを解決するためには、防衛省⇔防衛装備庁への異動時も適性評価は継続して使えるという一文を、政令に追加すればいいだけのことだ。政令の不備で優秀な隊員を失っていいはずがない。
防衛大臣は政令の不備を認め、正せ!
たとえば、国家安全保障局(NSS)へ防衛省職員として出向する場合は、〇〇幕僚監部防衛部防衛課、または防衛政策局防衛政策課を兼ねてNSSへの出向が命じられる。防衛省職員というキャップをかぶったままの出向なので適正評価は切れない。防衛省職員を兼ねて防衛装備庁へ異動できる体制を政令で決めてもよい。
または、異動で適正評価が切れることを明確にするやり方であれば迷うことはない。自衛隊員は外務省に出向して防衛駐在官として在外大使館等に勤務することがある。この場合は一度防衛省を退職して出向する手続きとなる。退職手続きまでするので、適性評価も同時に切れてしまうこともわかりやすい。あらたに最初から適正評価を取得するには数カ月かかるのでそのロスは計り知れないが、長期にわたって日本の国防を知り尽くした自衛隊員を失うことのほうが重大な損失だ。
「100件の特定秘密不正」が今回発表されたものの、まだ処分は下されていない。もともと特定秘密を取り扱う適正のあった人物が、政令の不備で省内にある外局に異動した時に手続き上の適正評価が切れていたことに気づかなかったという問題だ。
ここで重い処分を下せば、自衛隊人生に絶望する人が必ず出るだろう。優秀な人材を失う余裕はいまの日本にはない。防衛大臣は政令の不備を認め、それを正すことで、今回の処分については温情をもって取り計らっていただきたい。