【読書亡羊】安全保障はSFの世界に近づきつつある  長島純『新・宇宙戦争』(PHP新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


未来予測に必要な「SFプロトタイピング」

未来の戦争の形を考えるヒントの中でも最も重要なのが、「SFプロトタイピング」だろう。SFプロトタイピングとは、フィクションであるSF(空想科学)の思考を用いて、将来必要な技術や、起こりうる未来の予測を立て、試作(プロトタイプ)を作る手法だ。

「未来予測」を立てる際に、SFの発想を使って〈未来を可視化〉し、不測の事態に対応しうる柔軟性を醸成することが重要だとし、長島氏はこのSFプロトタイピングに一章を割いている。

没入感やバックキャスティング(プロトタイプされた未来のある時点から、現在解決すべき課題を考えること)の重要性を説くとともに、多くの人が「『もしそうなった場合、どうするか』というナラティブを共有する」ための一つの方法として、メタバースの有用性にも触れる。

メタバースは一時ブームとなり、投機筋の狩場のようになってしまったことで若干下火になりつつあるが、なるほど確かに「バーチャルに宇宙空間や未来の状況を作り出し、プレイヤーが没入し、我がこととして課題に取り組む」場にはなり得そうだ。

というより、それはオンラインゲームですでに実現されているというべきかもしれない。オンラインゲームについては最終章に収録されている長島氏と、本誌でもおなじみの戦略学の第一人者、奥山真司氏の対談でも触れられている。

奧山氏によれば、ウクライナの戦場から、兵士たちがスマホを通じてオンラインゲームに興じているのだが、これが部隊の連携を高めているというのだ。リアルとバーチャルの融合は、メタバース以前にオンラインゲームで達成されている、と指摘する。

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宇宙空間と仮想空間が広がる

念のため整理しておくと、一般的にオンラインゲームとメタバースの違いは「参加者に共通の目的があるかどうか」だという。

だが、現在のオンラインゲームは確かに何らかの課題をクリアする、ゲーム内の物語を先に進めるという目的は用意されてはいるものの、参加者たちはその目的を達成するためだけに参加しているわけではない。

自分のアバター(分身)を作り、他の参加者と会話する、グループを作ってゲーム内の目的地へ移動する、一緒に写真を撮る、イベントを開催して集うなどのコミュニケーションの場にもなっており、この点でメタバースとオンラインゲームは互いに近づきつつある。

となれば、本来は机上で行うウォーゲームをサイバー空間(オンラインゲーム内)で開催し、多くの参加者を募って、例えば台湾有事などの事態を実際に「動かして」みることもできるかもしれない。シミュレーションゲームというジャンルは古くからあるが、これをオンライン・リアルタイムで、大々的に行うことも可能になるだろう。

本書は宇宙という戦闘領域という地球外の空間のみならず、仮想空間においても様々な想像をかきたてるヒントにあふれている。

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