日米に対して、中国「ゼロ回答」の背景|和田政宗

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日中首脳会談が約1年ぶりに開催された。岸田総理は日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置されたブイの即時撤去等を求めたが、中国は「ゼロ回答」であった。聞く耳を持たない中国とどう向き合っていけばいいのか。(サムネイルは首相官邸HPより)


台湾侵略にクギを刺したバイデン政権

APEC首脳会談(米国・サンフランシスコ)に合わせ、先週、米中首脳会談、日中首脳会談が開かれた。米国、日本とも中国に懸案を解決するよう迫ったが、中国は「ゼロ回答」であった。中国への対処が難しくなってきている現実が今回の首脳会談でより鮮明となった。
今回の会談について、分析していく。

米中首脳会談は、米国時間15日午前11時頃から食事会も含めて約4時間行われた。この会談においてバイデン大統領は、米国と中国が競争関係にあることを強調し、米国は自国の強さの源泉に投資し続け、世界中の同盟国やパートナーと連携するとともに、同盟国やパートナーのために立ち上がると述べた。さらに、中国による台湾海峡及びその周辺での軍事活動の自制を求めた。

これは、トランプ政権によって転換された米国の対中姿勢がバイデン政権の現在においても変化がないことを中国に伝えるとともに、台湾周辺での軍事活動の自制の要求とともに「同盟国やパートナーのために立ち上がる」と述べることで中国の台湾侵略にクギを刺した形である。

そしてバイデン大統領は、自由で開かれたインド太平洋に対する米国の支持、インド太平洋の同盟国を防衛するという米国の意志が全く揺るぎないことを強調した。大統領は、航行と飛行の自由、国際法の順守、東シナ海と南シナ海の平和と安定の維持に強く関与していくとも述べた。

これらは、中国に対して現状変更を許さないという米国の意志を示しており、国際法を無視した中国の行動や、中国により台湾周辺等において航行や飛行の自由が制限されるようなことがあれば、米国が直接行動するということを述べている。航行や飛行の制限は、侵略の前段階で行われるものであり、米国はそのような行動を中国が取れば、その時点で介入すると宣言したのである。

なお、「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、安倍晋三元総理が提唱したものであるが、米国がこのように強く意志を示していることを考えれば、日本は提唱国としてもっと強くこの戦略をけん引していかなくてはならない。

習近平主席「中国は最終的に統一される」

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一方で、バイデン大統領は台湾について、米国の「一つの中国」政策は変わっておらず、米国はいずれの側からの一方的な現状変更にも反対であり、両岸の相違は平和的手段によって解決されることを期待すると述べた。

これは、台湾危機が迫るなか、台湾侵略を行わないのであれば、現状の両岸関係を追認するということである。そうした観点から、昨年8月に当時のペロシ下院議長の台湾訪問後に中国が一方的に途絶させた米中軍事ホットラインの再開にも合意した。これは米中間に不測の事態が起ころうとした場合に対処できるようにするものであり、台湾海峡の現状維持が重要であるという米国の認識を強調した形だ。

これに対し、中国の習近平国家主席は従来の主張を繰り返した。中国は米国を追い越そうとも取って代わろうとも考えていないと主張する一方、米国も中国を抑圧し封じ込めようとする意図を持ってはならず、相互尊重、平和共存に米中がともに努力していく必要があると述べた。

習近平主席は台湾については、米国の現状維持姿勢の表明を利用する形で、米国は「台湾独立」を支持しないという意思表示を具体的な行動で体現し、台湾の武装化をやめ、中国の平和的統一を支持すべきだ、「中国は最終的に統一される」と表明した。

これら米中首脳間のやり取りからは、台湾侵略の危機が高まるなか、米国がクギを刺したことについて中国は「ゼロ回答」を表明したに過ぎないことがわかる。スパイ等の容疑をかけ拘束している米国人の解放についても全く歩み寄りを見せず、台湾統一への強い意志を改めて示し、米国の軍事的介入を牽制した。

中国には米国であっても、もう何を言っても変化しないという状況まで来ている。

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