川勝知事著作本に滲む“女性蔑視”思想(後編)|小林一哉

川勝知事著作本に滲む“女性蔑視”思想(後編)|小林一哉

セクハラ被害者に手を差し伸べる女性を攻撃した川勝著作本の「あとがき」。読み込むとさらなる川勝知事の「本性」を知ることができる大きな手掛かりが――。


「アジール」を自ら捨てた矢野氏

『朝日新聞』の記事が掲載された後、同僚の高谷好一教授が東福寺にいる間に百数十通もの手紙を友人、知人に送っていた事実を『京都新聞』に発表した。

 修行などそっちのけで、言い訳の手紙を書いていただけではない。

〈(1995年)1月末、(矢野氏は)寺の都合で道場を出なければならなくなった。私たちは次の修行の場を探し、やっとのことでそれを見つけた。だが、その矢先に君は突如、単独で寺を出てしまった。〉ことも明らかにした。
 
一方、川勝知事は〈ついに発心した人間が、世間の諸縁を放下して、山門に入ったのである。その山門に見放されれば、いったいどこに行き場があろう〉と心配している。
 
実際は、元同僚たちが新たな山門を探してきたのだ。それも、どこにいるのかをちゃんと秘密にするように矢野氏に因果を含めたのだろう。

新たな山門で矢野氏は発心したわけでも、世間の諸縁を放下したわけではない。その事実を矢野氏本人が書いている。

矢野氏が編者を務めた『講座現代の地域研究 第2巻世界単位論』(弘文堂)の「あとがき」に、矢野氏は〈私は昨年12月31日付で京都大学東南アジア研究センターを辞任している。その後、直ちに、京都の東福寺専門道場にはいり、禅の修業をはじめたが、その寺もわずか40日で出ざるをえないことになり、ことしの1月29日から今日までのまるふた月、私は、身心の治療を兼ねて自宅を離れた仮ずまいの生活をしてきた。私がこの巻に寄せた3本の拙い論文は、このふた月のあいだに、心身ともに不調な状態で、苦しみながら書いたものである〉と書いた。

「あとがき」の日付は1994年3月29日となっている。
 
せっかく、高谷教授らが見つけてきた山門で修行をすることなく、それまでの世俗と同じ生活をしていたことも自らが明らかにした。
 
〈職も名誉も捨てた一介の人間から、安心立命の場を取り上げるのは、いじめへの加担である。アジールのない社会では、世俗をまみれながら、生を全うする以外に道はない。〉とまで川勝知事は書いている。せっかくの「アジール」を自ら捨てたことを矢野氏は川勝知事に伝えなかったようだ。

川勝氏にとって「セクハラは小事」?

いずれにしても、川勝知事の「あとがき」は、事実関係を全く理解しないで、単に矢野氏を頭から信用していることだけのことだ。

川勝知事の「あとがき」にある〈矢野暢元京都大学教授の出家も政治化する動き〉が何を指すのかわからない。当時、矢野氏がスウェーデン王立科学アカデミー会員としてノーベル平和賞の選考等に深く関わっていたことから、新聞、週刊誌等がセクハラ事件もでっち上げたとするうわさがあったようだ。実際にはセクハラ、レイプ事件は真実であり、ノーベル賞選考とは何ら関係もない。

川勝知事が〈日本の宗教集団への失望感を増幅させる〉思いで、宗教法人の免税特権を剥奪することまで求めている。
 
これも本質の話をそらして、もっともらしい批判をする現在の姿と全く同じである。

本質の話とは、矢野氏本人が関わったとされる「セクハラ事件」についてである。同じ大学教官としてはひと言も触れないのは、不思議な話である。あるいは、事実をちゃんと承知していて、川勝知事は無視したのかもしれない。

1994年3月、矢野氏は文部大臣に辞職承認処分取り消しを求める行政訴訟を起こし、その他、4件のセクハラに関する民事訴訟を起こしている。
 
レイプとセクハラを訴えた元秘書には、名誉棄損による500万円の損害賠償を請求した。裁判の途中で、矢野氏自身がセクハラ、レイプ等を認め、裁判すべてが矢野氏の完全な敗北で終わった。(ウイキペディアで「矢野事件」を調べれば詳しくわかる)

川勝知事が矢野氏の名誉を優先して、東福寺を訪れた女性たちだけでなく、宗教界全体を厳しく批判した背景には、矢野氏の主張を信じて、セクハラ、レイプ等を認めないのか、あるいは男性優位の社会では、「セクハラは小事」であり、その程度のことは許されると思ったのかのいずれかだろう。

川勝知事の「本性」

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