「現地へ行く必要はない」のか?
上田氏は鄭舜功の帰国に合わせて中国へ正使として派遣され、自らも拘束された日本の僧侶・清授が、鄭舜功に贈った歌を紹介したうえで、こう述べている。
〈中国と日本、その双方の事情に通じるものは、ときとして周囲から理解されず、苛烈な扱いを受けることがある〉
16世紀の人物が「実際に自分の目で見て確かめなければ、隣国の人々の考え方や思想なんてわからない」と渡航してルポをつづった一方で、この21世紀の世の中で「他国のことを学ぶのに、わざわざ現地に行く必要はない」「敵国の要人と交流を深める必要などない」とのたまう人物(しかも「有識者」)がいる。
本書は、物事の本質を見抜けるかどうかに、生まれた時代は関係ないことをも教えてくれるようだ。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。