都合のいい人間を偶像化
アナウンサー:実際、現実は「核なき世界」とは程遠い状況に向かっています。プーチン大統領は6月、ベラルーシに核配備を始めたと欧米を牽制。
また先月30日、モスクワ中心部にドローンが飛来し、ビルの一部を破壊。こうした状況にメドベージェフ前大統領は「ウクライナの反転攻勢が成功し、ロシア領土の一部を占領するなら、核兵器を使うことになる」と警告しました。
一方、朝鮮半島では、先月、核兵器を搭載可能な米軍の原子力潜水艦が42年ぶりに韓国に寄港。これに北朝鮮は「核兵器の使用条件に該当しうる」と猛反発。長距離核攻撃に繋がる新型ICBM、大陸間弾道ミサイルの発射実験を繰り返しているのです。
基本的に核兵器で脅迫を行っているのはいずれも「ならず者国家」です。科学技術に頼らずに核兵器の使用リスクを低下させるには、「ならず者国家」の国家体制を、文民統制が確立した民主主義体制に変容させることです。勿論、「ならず者国家」の独裁者にとって、体制維持は最優先事項であるので、このことには高いハードルが存在します。
アナウンサー:核抑止どころか核使用の脅威が高まりつつある世界。こうした中、木曜日、35度に達する猛暑の中、国会前に高齢者ら120人ほどが岸田政権に抗議して集まりました。彼らは被爆国日本の現状について「日本はアメリカの傘に隠れている。それで核廃絶を言っても世界は納得しない」「日本は何も実質的に核廃絶の動きをしようとしていない恥ずかしさを凄く感じる」この参加者の中に現在92歳、戦争の悲劇を描いた数々の作品で知られるノンフィクション作家の澤地久枝さんの姿もありました。
澤地久枝氏:この間、サミットを広島で開催したが、なぜ核兵器は一切やめるという結論に行かなかったのか。武器を持たない、戦争しない国が一つでも増えれば、それだけ戦争というものが遠ざかる。そういう呼びかけの役割を日本はしなければならない。今、非常に大事なところにいる。
関口宏氏:澤地さんはお元気そうだった?
アナウンサー:炎天下の中、たくさんの高齢者の方が声を上げている姿がとても目に焼き付いています。
以上のやり取りは『サンデーモーニング』が得意とする特定の政治的主張を持つ集団の【偶像化 idolization】に他なりません。
言論において、論理的判断の対象になるのは、主張の合理性や蓋然性ですが、『サンデーモーニング』はしばしば、番組の論調と合致する政治的主張を持つ人物の人格をドラマティックに演出します。今回の場合は、暑さというハンデに立ち向かいながら核廃絶の声をあげる高齢者です。
人間は努力をする人間に好印象を持つという傾向がありますが、このバイアスを利用してその主張を正しいものであるかのように誘導する印象操作を【努力に訴える論証 notable effort】と言います。
客観的に見れば、彼らの主張は前提から結論を導く【論証 argument】ではなく、「核廃絶」ありきの個人の倫理的価値観を強要する【言説 statement】に過ぎません。日本が米国の核の傘の下にいるのは、現実社会における国民のセキュリティを確保するのが目的であり、その核の傘の下で核廃絶を進めていくことに論理的な矛盾はありません。
そもそも、武器を持たずに核の傘から出て言葉で核廃絶を訴えたところで、「ならず者国家」が核廃絶に動くという合理的確証はありません。
核を廃棄してロシアに侵攻されたウクライナを見ればわかるように、戦争から遠ざかるどころか、逆に戦争に巻き込まれるリスクが高くなります。なぜなら懲罰的抑止が機能しなくなるからです。
何の合理的論拠も示すことなく核廃絶を訴える【過激な平和主義者 extreme pacifist】は人々の生命リスクを脅かす無責任な存在です。