米国のケリー気候変動問題担当大統領特使が7月中旬、中国を訪問し、外交トップの王毅中国共産党政治局員らと会談した。
気候変動対策は他の政治案件とは切り離して進めるべきだと訴えたケリー氏に対し、王氏は、米中関係は全ての問題がリンクしており、特に台湾問題で米側が中国側の意に沿う行動を取らなければ、脱炭素で踏み込んだ合意などあり得ない旨、クギを刺した。
炭素削減で画期的成果を上げたいケリー氏は、帰国後バイデン大統領に、中国が不快感を覚えるような政策を控えるよう進言したはずである。
バイデン政権発足以来の悪しきパターンであり、気候変動こそが安全保障上最大の脅威という誤った認識(最大の脅威は明らかに中国共産党政権だろう)を掲げる同政権が、一段と対中宥和的方向に動くことが懸念される。
閣僚級が相次ぎ北京詣で
ケリー氏に先立ち、イエレン財務長官も訪中した。これも危うい。
昨年、米議会で焦点となった台湾政策法案は、米台の軍事協力深化とともに、中国が台湾圧迫を進めた場合、金融制裁を発動することを抑止力強化の柱としていた。
しかし、投資環境の安定を図りたいウォール街の意を受けた財務省が難色を示し、結局、金融制裁規定は最終段階で全て落とされた。金融制裁を阻止する姿勢において、中国共産党と財務省は事実上のパートナーと言えよう。
この点、ポンペオ前国務長官が興味深い事例を回顧録に記している。2020年5月、香港の自由圧殺を受け、当時のトランプ米政権は香港に与えていたビジネス上の特別優遇措置を撤廃した。
ところが、中国共産党の資金洗浄の中心的担い手だったHSBC銀行(本拠地ロンドン)への金融制裁発動という追加措置には、ウォール街の巨大金融機関群が「米経済を傷つける」と猛反対した。ポンペオ氏は、要するに彼らのボーナスが減るという意味だと揶揄している。しかしウォール街に財務省がくみしたことで、結局制裁案は立ち消えとなる。
イエレン長官の前には、ブリンケン国務長官が北京に飛んでいる。その直前、シンガポールでのアジア安全保障会議(シャングリラ対話)を機に米側が求めた米中国防相会談を中国側が拒否する展開があったにも拘らず、である。空港にブリンケン氏を出迎えたのは、カウンターパートの王氏でもその下の秦剛外相でもなく、更に格下の外務省局長だった。
米閣僚クラスによる一連の北京詣では、擦り寄りと形容されても仕方ないだろう。
中国の対日難癖の背景に米の軟弱さ
7月中旬、中国政府は、科学的に安全が立証されている日本の原子力発電所処理水海洋放出について「汚染水」拡散だと難癖をつけ、日本の海産物を事実上輸入禁止とした。
一般に、米中関係が緊張すると、日米分断の思惑もあって中国は対日微笑外交に出てくる。逆に米中関係が緩むと、日本に強く出てくる。
バイデン政権の軟弱姿勢を前提とすれば、日本は、中国に対する独自の反撃措置を講じない限り、理不尽な攻撃にさらされ続けることになろう。(2023.07.24国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)