リニア期成同盟会で静岡県の懸念について話す山梨県の長崎知事(東京都内、筆者撮影)
難波市長のリニア問題介入宣言
長崎知事とは違い、難波市長には他人事である。
昨年10月31日の県リニア専門部会で、県理事だった難波氏が、掘削による周辺の高圧地下水がトンネルに引っ張られるという概念図を示し、“引っ張られ理論”があるかどうかを迫ると、JR東海は「理論上はありうる」と回答した。
この回答で、静岡県は、JR東海が静岡県内の地下水が引っ張られることを認めたとして、県リニア専門部会で議論することを強引に決めてしまった。
12月に入って、トンネル掘削だけでなく、調査ボーリングまで問題にした際には、難波氏は県を退職して、静岡市長選への準備を進めていた。
関係者によると、もともとの問題を引き起こした責任があるとして、難波市長は「山梨県内の調査ボーリング」問題に介入したのだという。
森副知事は5月11日、「静岡県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ約300メートルまでの区間を調査ボーリングによる削孔(さっこう)をしないことを要請する」などの意見書をJR東海に送っている。
つまり、川勝知事に代わって、県境約300メートルの断層帯付近で「山梨県の調査ボーリングをやめろ」を求めたのだ。
森副知事は、川勝知事の意向に沿って職務を遂行しているに過ぎない。森副知事に何らの権限がないことを難波市長が最もよく承知している。静岡県庁の組織を一番よく承知するのは難波市長である。
それなのに、なぜ、難波市長は直接、川勝知事に「県の主張には何ら正当性がない」ことを説明しないのか?
ダイコンを手にした記者会見というパフォーマンスは非常に目立つが、川勝知事に理解してもらうには、難波市長が県庁の川勝知事を訪ね、「この問題には大義名分がないから、やめるべきだ」と言うのが政治家としての筋である。
長崎知事の言う「企業の正当な活動を行政が恣意的に止めている」ことも一番よく承知しているのは、官僚だった難波市長である。それなのに、川勝知事に直接、何も言えないのでは、もともとこの問題を引き起こした責任云々も疑わざるを得ない。
4月13日の就任会見で、難波市長は「大井川利水関係協議会に加わる」などと発言した。前日の中日新聞インタビューでは「リニア環境影響評価統括監」設置まで述べて、今後、リニア問題に介入することを宣言した。
今回の特別会見もその流れの1つである。一体、難波市長がリニア問題に介入しようとする真意は何か、ちゃんと見ていたほうがいい。
「静岡経済新聞」編集長。1954年静岡県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。政治部、文化部記者などを経て、2008年退社。現在、久能山東照宮博物館副館長、雑誌『静岡人』編集長。著作に『静岡県で大往生しよう』(静岡新聞社)、『家康、真骨頂、狸おやじのすすめ』(平凡社)などがある。