3月27日、大井川利水関係協議会後の囲み取材に応じる流域の首長たち(静岡県庁、筆者撮影)
JR東海にとって新たな厄介事が
静岡市は2018年6月、JR東海と、リニアトンネル建設の円滑な推進と地域の振興等のために相互に連携・協力する基本合意を結んだ。
JR東海は地域振興として、リニアトンネル工事の拠点となる静岡市井川地区と市内中心部を結ぶ140億円の県道トンネル建設を引き受け、静岡市はトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きを速やかに行うと約束したのだ。
静岡市のリニア問題解決のために、地域振興をJR東海に引き受けさせたのだ。いまさら、静岡市がJR東海を行政的に指導する必要性はない。もし、難波市長が口出ししたいのならば、2018年6月の基本合意を破棄しなければなくなる。そんな信義に欠けることができるのか?
中日新聞によると、難波市長は、静岡市のリニア環境影響評価協議会の在り方を見直して、新たに『リニア環境影響評価統括監(仮称)』を設け、外部人材を登用する方針まで示していた。
水環境問題とは別に、自然環境問題を議論する国の有識者会議、県の専門部会があり、さらに静岡市が環境影響評価による南アルプスの自然環境の在り方などで見解を示していくというのだ。
もし、そうならば、JR東海にとって新たな仕事が増えるだけである。県専門部会の科学者と称される専門家はそれぞれの知見に基づいて、JR東海の説明に対して、さまざまな反証や疑問を述べている。
その手間と時間は膨大であり、そこに静岡市という別の新たな手間と時間が加わるというわけだ。
中日新聞記事が掲載された後、新設ポストの『リニア環境影響評価統括監(仮称)』に、県リニア担当の織部康宏理事が就くといううわさが関係者の間で流れた。
織部理事はすでに県庁退職後に、再任用で現在のポストに就いているから、横滑りすることも何ら問題ない。ただ、難波副知事時代の“腹心”だっただけの織部理事が静岡市でどのような役割を果たすのか、疑問点はあまりにも多い。
中日新聞報道などもあり、流域首長たちは難波市長に信頼を置いてはいないようだった。各首長たちは、難波市長の加入にはっきりと難色を示した。
JR東海への“無理難題”は数知れず
加入宣言から1カ月後、難波市長は5月12日の会見で、大井川利水関係協議会への入会を断念することを明らかにした。難波市長も周囲に“真意”を見透かされていることに気がついたのだろう。
インターネットニュース番組では、難波市長が「県が行っていること、おそらく川勝知事が言っていることだが、『論理性が少し厳しい』という印象だ」「(全量戻しの懸案を田代ダム案という)ほぼ解決できる案が出ている。静岡県がまだ反対するのはおかしい」などと述べたことが、地元の事情をよく知らない中央メディア関係者から高い評価を受けたようだ。
現在のリニア議論の焦点である「田代ダム案」も「山梨県のボーリング調査をやめろ」の混乱を引き起こすことに深く関わった張本人が難波市長である。
その2つの問題を議論した県専門部会で、副知事(理事)時代の難波市長がどのような“無理難題”をJR東海に投げつけたのか、あまりに多くて枚挙にいとまがないほどだ。
難波市長は4月13日夕方、川勝知事を表敬訪問している。
その席では、お互いに築いた「信頼関係」をアピールしたに過ぎない。筆者には、2人が固い握手をしたのは、リニア問題で今後も“共闘”していくための固い契りのようにしか映らなかった。
これまではナンバー2の事務方トップとして川勝知事に仕えてきた。静岡市長という政治家となったいまは、川勝知事に遠慮なくもの申すことができる。
難波市長が本当にリニア推進を願うならば、最初の面会で直接、何らかの苦言を呈する場面があってもよかったはずだ。そのくらいのことはできるはずだが、一切、そんなことを考えてもいないようだった。
難波市長の表面的な言辞に惑わされることなく、発言の根底にある“真意”を読み取ったほうがいい。