ミツカン「種馬事件」 まさかの敗訴|西牟田靖

ミツカン「種馬事件」 まさかの敗訴|西牟田靖

2013年、約1年間の交際を経て、中埜大輔さんは、幸せな家庭を築けると信じて聖子さんと結婚する。だが、彼の人生は義父母であり、ミツカンの会長・副会長でもある和英・美和氏によって破壊された――。


養子は中埜家の伝統か?

判決で堀田秀一裁判官は《被告聖子は中埜家に生まれ育ち、中埜家の家風や価値観を大事にする考えを有しており》、《子が生まれた場合、亡和英及び被告美和との間で養子縁組をする可能性があることを説明していた》と指摘したが、判決後、大輔さんはこう反論している。

「生後4日の息子を養子に差し出すことなど、私は一切説明を受けていません。私が聞かされていたのは、息子が20歳前後になってから、税金対策で養子縁組をする可能性があるということだけです。

子が成人であれば〝親子引き離し〟ではなく全く問題はない。

一方、生後4日の息子との養子を強要されることは、親子引き離しの危機であり、大問題です。裁判官はこの重要事実を無視している」

大輔さんの言う通り、堀田裁判官はこの重要事実を無視している。
昨年8月に行われた本人尋問で大輔さんの代理人である河合弘之弁護士は和英氏にこう質問した。

――生後すぐに子どもを養子にするなんて大輔さんは聞いていませんよ。裕子(長女)さんも聖子さんも、養子になったのは19歳と20歳。大人になってからですよね。
「はい。でも、早く養子になれば、次の当主候補として祖父に認めてもらったと、後々、孫の励みになると思ったからです」

――でも、8代目のあなたは、養子にならなかったですよね。
「なっていないです。そのときの当主の考えによっていろいろですから」

――2代目から7代目までで、生後すぐに養子になった人はいるんですか?
「……いません」

――では、養子は〝中埜家の伝統〟ではないじゃないですか!!
「……」

養子縁組を強要した中埜家

長男が生まれて4日後の2014年9月、ロンドンの産後ケア施設にあらわれた和英・美和氏(小島淳常務も同席)。2人は孫の顔を見るのもそこそこに、書類を広げ、大輔さんに迫った。

「産まれてきた子どものことだけど、先ずはこの書類にサインをしろ」

書類は「養子縁組届出書」。養父母の欄には和英氏と美和氏の名前がすでに記されていた。つまり、生後間もない息子を祖父母である和英・美和氏の養子にすることを、大輔さんと聖子さんに強要したのだ。

「お前! 何者だと思ってるんだお前!! この場でサインをしなければ片道切符で日本の配送センターに飛ばす」

何度も和英氏に怒鳴られたが、大輔さんは繰り返しこう伝えた。
「夫婦で話し合う必要があるのでこの場でのサインは勘弁していただきたい」

大輔さんが養子縁組書類にすぐサインしなかったことに関して、美和氏は聖子さんにメールを送っている。

「ダダ(和英)が優しくてよかったね。先代だったらママ(美和)は即座に子供と一緒に家を出されたし、ダダも殴られる位じゃすまされないし、もちろん、跡を継ぐにはママと別れることが絶対条件だと思います。

もちろん西野の家(美和の実家)はそんな家の思想の根本を崩して戻されたような恥さらしは敷居を跨がせないと確信しています。特にママのお父さんは。あの言葉はママに取って子供の将来を決定してしまう言葉でただ背筋が凍る思いでした」

大輔さんの言葉のどこが「背筋が凍る」のか。また、「殴られる位じゃすまされない」を強要と言わず、何を強要というのだろうか。

その日の夜、大輔さんは聖子さんにこう提案している。
「家族3人で幸せに暮らすことが一番大切。義父母に服従したり、ミツカンの仕事に執着したりする必要はないと思う」

だが、聖子さんは泣きながら大輔さんに懇願している。
「両親は大輔さんを家から追い出すつもりはない。私が(両親と大輔さんの)間に入って家族を守る。お願いだから養子縁組の書類を両親に提出してほしい」

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

8月23日、青山繁晴さんは総裁選に向けた記者会見を行った。最初に立候補を表明した小林鷹之さんに次ぐ2番目の表明だったが、想定外のことが起きた。NHKなど主要メディアのいくつかが、立候補表明者として青山さんを扱わなかったのである――。(サムネイルは「青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会」より)


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。