「万里の長城に頭を打ちつけられて血まみれになる」
2025年1月18日、いままさに戦争が始まろうとしていた。アメリカでは大統領就任式を二日後に控えていたが、選挙の結果はまだ係争中だった。民主党と共和党の候補者はいずれも勝利を主張し、就任式での宣誓の準備をする一方で、何百万人もの支持者たちが街頭で衝突していた。アメリカで選挙結果が争われるのは連続二回目であり、今回は同時に、地球の裏側で危機が進行していた。
中国が台湾海峡で大規模な海軍演習を行っていたのだ。人民解放軍は台湾に向けて、空挺部隊、水陸両用揚陸部隊、攻撃用航空機、数千発の弾道ミサイルといった脅威となる兵
力を配備していた。
このような中国による力の誇示は、過去50年間、離反した省とみなす台湾という島国への恒例行事となっていた。中国共産党のトップとして13年目を迎える習近平は、台湾に対して北京に服従せよと繰り返し警告し、アメリカに対しても手を出すなと言い放っていた。
彼が好んで使う言葉は、中国の発展を遅らせようとする者は「万里の長城に頭を打ちつけられて血まみれになる」というフレーズだった。これと似た調子で、中国共産党の宣伝機関は、人民解放軍の攻撃で台湾軍とアメリカ軍が虐殺される様子を描いた動画を公開するようになった。さらに人民解放軍は、日本政府が邪魔をすれば、日本の都市を核兵器で蒸発させると脅してもいた。
西太平洋のはるか上空では、アメリカのスパイ衛星が軍の動きを監視していた。アメリカが世界に誇るシギント(電波傍受)能力が、中国側の動員を察知している。だがアメリカは、これも習近平がよく使う脅しであり、台湾の国民を動揺させて軍備を増強する陽動作戦に過ぎないと見ていた。
だが、彼らは今回、完全に間違えていた。
中国の怒涛の攻撃
アメリカ東部時間の午後10時1分(北京と台北では翌朝に当たる)に、中国軍は猛攻撃を開始した。短・中距離ミサイルが、台湾全土の飛行場、政府機関、軍事施設、そして沖縄とグアムにあるアメリカの重要な空軍基地を攻撃したのだ。この地域を唯一航行していたアメリカの空母であるUSSロナルド・レーガンには、対艦弾道ミサイルが直撃した。
事前に台湾に潜入していた中国の特殊部隊がインフラを破壊し、首脳を殺害して中華民国政府を斬首しようと試み、台湾国民にパニックを引き起こした。中国のサイバー戦士は、送電網を破壊して台湾全土を大規模停電に追い込み、アメリカの人工衛星を盲目状態にした。
一方、北京はこの危機が台湾のせいであるとする世界的な偽情報キャンペーンを展開し、アメリカ国内の混乱した政治情勢をさらにかき回した。
ところがこれらはすべて、本番のための準備だった。「演習」を行っていた中国艦隊は、いまや台湾で最もアクセスしやすい島の西側の浜辺への着上陸作戦を開始しようとしていた。
海峡を行き来する中国の民間のカーフェリーからは、小型の上陸用艦艇が突然、投入された。中国本土では、空挺部隊が台湾の飛行場と港を占領する準備をしており、数十万の部隊による主攻撃の道を開こうとしていた。
長年恐れられていた台湾への侵攻が始まり、アメリカの対応能力に対しても多方面から攻撃が開始されたのだ。
台北では、事態はすぐに取り返しのつかないところまで来た。ワシントンにも事態が深刻であることは伝わった。側近たちは病身のバイデン大統領に対し、残された時間がないことや、良い選択肢がないことを伝えた。
アメリカは台湾を見捨てることはできない。2500万人の民主的な市民を裏切り、フィリピンや日本との同盟の信頼性を揺るがすことになるからだ。中国が支配する台湾は、東アジア全域からその外へ中国が拡大する足がかりとなる。
だがアメリカは、第二次世界大戦以来となる大規模で高価な戦争を引き起こすことなく中国の攻撃を阻止することはできないのだ。