朝鮮半島で再び軍事的緊張が高まっている。2017年の緊張では核実験とミサイル発射で挑発を続けた金正恩総書記に対してトランプ米大統領が軍事的圧力をかけたが、今回は尹錫悦韓国大統領が一戦辞さずの覚悟を示している。緊張はどこまで高まるのか。関係者は、北朝鮮が今年中に南北境界線近くの延坪島などで局地戦を仕掛ける危険があると述べた。
韓国無人機進入で北軍幹部解任
2022年に北朝鮮は約90発のミサイルを発射し、核先制攻撃があり得ることを法令に明文化した。11月18日には大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」を発射した。通常より高い角度で発射するロフテッド軌道ではあるが、西側軍事筋によると、弾頭の大気圏再突入を成功させた。米本土を核攻撃する能力をほぼ手に入れたことになる。ところがバイデン米政権はほとんど動かなかった。
金総書記は年末に韓国を激しく挑発した。12月26日、ドローン(無人機)5機を侵入させ、うち1機はソウル中心部にある大統領室の付近の飛行禁止区域にまで入ってきたが、韓国軍は1機も撃墜できなかった。26~31日の党中央委員会総会で金総書記は韓国を「明白な敵」と規定し、実戦で使う戦術核兵器の大量生産を宣言した。31日と1月1日には日本海に向けて短距離弾道ミサイルを発射した。
それに対して尹大統領は文在寅前政権の宥和政策を否定し、核恫喝や軍事挑発に報復すると明言。実際に、北朝鮮ドローンが侵入した26日、無人偵察機を少なくとも2機、軍事境界線の北へ送り込んだ。関係者によると、無人偵察機は平壌上空まで飛行したが、北朝鮮軍は対応できなかった。31日の中央委総会で、軍最高幹部の朴正天・中央軍事委副委員長(元帥)がひな壇でうなだれる中、解任された。主な理由は無人偵察機への対応の失敗だと関係者は説明した。
尹大統領は28日、「北のいかなる挑発にも確実に報復すべきだ。…北に核があるからといって恐れたり躊躇したりしてはならない」と発言し、1月1日には「一戦を辞さない構え」を表明した。さらに文前政権が北朝鮮と結んだ軍事合意の破棄を検討し始め、同合意で禁止された軍事境界線における韓国軍の拡声器放送再開の準備に着手した。
経済苦境認めた金総書記
公表された中央委総会における金総書記の報告では、経済建設の成果に関する言及が極端に少なく、代わりに「前代未聞のあらゆる挑戦と脅威がたくさんあった2022年」とか「新年にもわれわれの闘いは決して容易でない試練と難関を伴うであろう」といった苦しさを認めた表現が12カ所もあった。
それが幹部や人民の本音であり、金総書記も無視できなかったのだ。全国的にすさまじい食糧難が起きている。昨年が未曾有の不作であり、既に北東部の両江道、咸鏡北道、咸鏡南道では餓死者が発生した。軍や治安機関も秋の収穫時にコメやトウモロコシを必要量の6割程度しか確保できず、今年5月か6月頃には備蓄が底をついてしまう状況だ。
2023年の朝鮮半島は、局地戦と大飢饉の可能性が暗い影を落としている。(2023.01.10国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)