成長戦略を起動させる原子力の活用|奈良林直

成長戦略を起動させる原子力の活用|奈良林直

太陽光、風力などの再生可能エネルギーだけで電力やエネルギーの供給に成功した国は存在しない。ドイツを中心とした再エネ優先政策は、もはや破綻した。


今年8月、岸田文雄首相は「原子力発電の活用」を指示した。それを受けて経済産業省が11月28日、有識者会議の原子力小委員会で、原子力活用策の方向性と行動計画の原案を提示した。政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で年内に最終決定する。活用策は、①安全審査を合格した原子力発電所の早期再稼働②現行法で最長60年とされている原発運転期間の延長③廃炉が決まった原発の建て替え(リプレース)として革新軽水炉や新型炉の開発と建設の推進―が柱になっている。

破綻した再エネ優先政策

ロシアのウクライナ侵略に対する西側の経済制裁とロシアの報復により、欧州で天然ガス不足が発生し、電気料金は高騰を続けている。ドイツを例にとると、電気・ガス価格は2カ月で2倍以上に達した。我が国でも多くの電力会社が年明けから電気料金の3~5割近い引き上げを申請している。原発が複数再稼働した九州電力と関西電力は辛うじて値上げを回避する。太陽光、風力などの再生可能エネルギーだけで電力やエネルギーの供給に成功した国は存在しない。

ドイツを中心とした再エネ優先政策は、もはや破綻した。これを分かり易く説明しよう。例えば一国の電力需要を100%満たす設備規模の太陽光発電所を建設したとする。しかし、太陽光で発電できるのは1日約6時間で、24時間のうちの25%に過ぎず、加えて我が国の晴天比率は半分なので、供給できる電力は半分の13%程度にとどまる。同様に風力発電所が供給できる電力も設備規模の25%に過ぎない。太陽光と風力を足して38%、水力発電や木材チップなどを燃料に使うバイオマス発電の10%を加えても48%である。曇天で無風状態では38%分がゼロになる。天候で電力不足に陥らないようにするには、水力とバイオマスの10%分を除いた90%分を火力発電、原子力発電、揚水発電で供給できる体制を整えておく必要がある。つまり再エネ優先政策では、我が国が必要とする電力供給設備の2.9倍もの重複投資が必要なのだ。

さらに、再エネだけで電力需要を賄うには、曇天・無風状態が1週間続いても電力供給を絶やさないように、バッテリー(蓄電池)を使った電力貯蔵も必要となり、それに約800兆円かかる。国家予算の数年分のコスト負担は経済的にも無理だ。

新時代を開く革新軽水炉

廃炉が決まった原発の建て替えに使われる革新軽水炉は、福島第一原発事故の原因分析を通じて採用された徹底的な安全対策を集大成し、さらに発生した放射性物質を閉じ込める設備や炉心(コア)の溶融物を受け止める「コアキャッチャー」を備え、世界最先端の仕様を誇る。

原発の新増設に反対してきた公明党も、安全性の高い原発に「置き換える」ことで賛成に回った。革新軽水炉は2030年代初頭の営業運転開始を目指す。2050年の脱炭素実現へ向けて、10基、20基と建設していけば、新しい時代が切り開かれる。設備も、人も、サプライチェーンも復活し、世界に先駆けて低廉で安定した電力を利用する我が国の成長戦略が始動するのだ。(2022.12.05国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


日本人だけが知らない「新型コロナ起源説」世界の常識|掛谷英紀

日本人だけが知らない「新型コロナ起源説」世界の常識|掛谷英紀

新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所で作られ、流出したものであるという見解は、世界ではほぼ定説になっている。ところが、なぜか日本ではこの“世界の常識”が全く通じない。「新型コロナウイルス研究所起源」をめぐる深い闇。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

なぜ自民党総裁選で青山繁晴さんを支援するのか|和田政宗

9月12日(木)に告示され、27日(金)に開票が行われる自民党総裁選。私が選対事務局長を務める青山繁晴さんは、8月23日に記者会見を行った。しっかりと推薦人20人を9月12日に確定できるよう頑張りたい。(写真提供/産経新聞社)


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】低次元な高市新総裁批判|藤原かずえ

【今週のサンモニ】低次元な高市新総裁批判|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは  西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは 西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「ドバイ案件」の黒い噂|なべやかん

「ドバイ案件」の黒い噂|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


【今週のサンモニ】ステマまがいの偏向報道番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ステマまがいの偏向報道番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

日本のメディアは「チャーリー・カーク」を正しく伝えていない。カーク暗殺のあと、左翼たちの正体が露わになる事態が相次いでいるが、それも日本では全く報じられない。「米国の分断」との安易な解釈では絶対にわからない「チャーリー・カーク」現象の本質。