一方的な専守防衛からの大転換
「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書が、今月16日閣議決定した。これまでの受け身一辺倒であった専守防衛から、「敵基地反撃能力」の保有と抑止に重点が置かれ、戦後の安全保障政策の大転換となった。安倍政権、菅政権からの流れを、現政権下の3文書改定で実現したことになる。
なお、「国家防衛戦略」は、「防衛計画の大綱」に代わり新たに策定されたものである。これまでの防衛力の整備の基本的指針である「防衛計画の大綱」に代わり、我が国の防衛目標を達成するためのアプローチとその手段を包括的に「国家防衛戦略」として示した。
また、「防衛力整備計画」は、「中期防衛力整備計画」に代わり新たに策定されたもので、これまでの「中期防衛力整備計画」が5年間の計画だったものを、「防衛力整備計画」は10年計画とし、我が国として保有すべき防衛力の水準を示し、それを達成するための中長期的な計画を記すものとなった。
そして、これらの文書で特に注目すべきものは、中国の脅威が明確に位置づけられ、それに対応する防衛力を整備する内容となっていることだ。
中国は今後5年が、自らが目指す社会主義現代化国家の全面的建設の肝心な時期と位置付けていると分析し、国防費の急速な増加で能力を強化、軍事活動を活発化させており、中国の「対外的な姿勢や軍事動向等は我が国と国際社会の深刻な懸念事項」であると非難した。
さらに、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保する上で、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」であるとし、我が国や東アジアを取り巻く緊迫した情勢は中国に原因があることを明記した。
この他、北朝鮮、ロシアの行動も併せて考察し、新しい戦い方が顕在化していると分析。精密打撃能力による大規模なミサイル攻撃や、情報戦を含むハイブリッド戦、宇宙・サイバー・電磁波領域や無人アセットを用いた攻撃、核兵器による威嚇に備えなければならないとしている。
こうした攻撃への対応として、今回新たに打ち出されたのが、「抑止」であり、そのために必要なのが「敵基地反撃能力」である。一方的な専守防衛からの大転換である。
12月16日、岸田総理記者会見
抑止力向上、3つのアプローチ
新たに策定された「国家防衛戦略」では、その前提として、ロシアのウクライナ侵略を題材に我が国の防衛上の課題を分析した。ロシアがウクライナを侵略するに至った軍事的な背景は、ウクライナがロシアによる侵略を抑止するための十分な能力を保有していなかったことだと指摘。
「高い軍事力を持つ国が、あるとき侵略という意思を持ったことにも注目すべき」とし、脅威は能力と意思の組み合わせで顕在化するが、意思を外部から正確に把握することは困難であること。国家の意思決定過程が不透明であれば、脅威が顕在化する素地が常に存在することから、このような国から自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる「抑止力」が必要だとしている。
そして、抑止のためには3つのアプローチが必要としており、第1に、我が国自身の防衛体制の強化。第2に、日米同盟の抑止力と対処力を強化し、日米の意思と能力を顕示すること。第3に同志国等との連携の強化し、一か国でも多くの国々との連携を強化することを挙げた。
特に第1のアプローチである、我が国自身の防衛体制の強化については、我が国への侵攻を我が国が主たる責任をもって阻止・排除する能力を保有することであり、相手にとって軍事的手段では我が国侵攻の目標を達成できず、生じる損害がコストに見合わないと認識させるだけの能力を我が国が持つこととしている。
こうした防衛力を保有できれば、米国の能力と相まって、我が国への侵攻のみならずインド太平洋地域における力による一方的な現状変更やその試みを抑止できるとして、我が国がしっかりとした防衛力を整備することがインド太平洋地域の平和を守ることになるとの考えを示した。