台湾との連携強化へ政府・与党は指導力を示せ|岩田清文

台湾との連携強化へ政府・与党は指導力を示せ|岩田清文

中国による台湾侵攻の可能性が高まっている中、最悪の事態に備え、必要な準備を進めるのが国家としての危機管理だ。台湾の邦人保護、先島諸島の住民保護は、昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略など3文書で対応の方向性が示されている。


台湾有事が日本有事になることは、あえて触れるまでもないだろう。米国では、その台湾有事への危機感がこれまでにないほど高まっている。その危機認識は日本政府、与党も共有しているはずだ。

存在しない日台調整の枠組み

日台関係に絞ったとしても、台湾有事の際に日本政府が実施すべきことは多い。

台湾在住邦人約2万5000人と旅行者に対しては、情勢が緊迫した段階で帰国を促すことになるが、民間航空路が閉ざされてからの救出や、救出できない邦人の台湾内における保護は政府の責任だ。ところが、仮に自衛隊が救出に向かうとしても、台湾総統府、台湾軍との調整の枠組みは存在しない。

ロシア軍に侵略されたウクライナでは、人口の2割、約800万人が国外に避難している。台湾の人口の2割は約460万人だ。パスポートを持たず、約110キロ先の日本の与那国島や石垣島に舟で流れ着く台湾人も多いだろう。住民を島外避難させている中、台湾難民の受け入れは、自治体では対応できない。

ましてや、自衛隊と台湾軍の間では、台湾や与那国島周辺における情報共有さえ行われていない。

ここまで放置されてきたのはなぜか。その原因は1972年の日中共同声明に遡る。「一つの中国」の承認を迫る中国政府に対し、日本政府は台湾が中華人民共和国の一部であるとの中国政府の立場を「理解し、尊重する」と返した。台湾が中国の一部であることを認めはしないが、一応、承っておくとの姿勢だ。爾来、日本の政府機関が国交のない台湾の当局と公式に交流することは憚られてきた。それが今も続いている。中国による台湾武力統一の危険が叫ばれている時、このままでいいのか。

危機対策の具体化を急げ

民主主義体制の台湾が存続することは日本の国益にかなう。ましてや日本人の命に関わる問題である。台湾人の意志による平和統一なら、理解し尊重すればいい。しかし、台湾の意に反して武力統一を試みる行為は、ロシアがウクライナと一体だと主張して軍事侵攻した構図と重なる部分がある。その行為は民主主義に対する権威主義の侵略であり、断じて許してはならない。

中国による台湾侵攻の可能性が高まっている中、最悪の事態に備え、必要な準備を進めるのが国家としての危機管理だ。台湾の邦人保護、先島諸島の住民保護は、昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略など3文書で対応の方向性が示されている。今はこれら文書に基づき対策の具体化を急ぐべき時期だ。

国家安保戦略が「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付けた中国の蛮行から日本人の命を、そして日本の国益を守るため、政府・与党が指導力を発揮し、台湾との連携強化を推し進めなければならない。(2023.04.03国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


韓国でも報じられない「尹錫悦大統領弾劾裁判」の真実 | 康容碩

韓国でも報じられない「尹錫悦大統領弾劾裁判」の真実 | 康容碩

尹錫悦氏と司法研修院の同期でYouTubeフォロワー100万人を誇る人気弁護士が独占インタビューで明かした「大統領弾劾裁判」の全貌。


自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

潜水手当の不正受給、特定秘密の不正、食堂での不正飲食など、自衛隊に関する「不正」のニュースが流れるたびに、日本の国防は大丈夫かと心配になる。もちろん、不正をすれば処分は当然だ。だが、今回の「特定秘密不正」はそういう問題ではないのである。


最新の投稿


【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題  三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題 三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!