常軌を逸したミサイル発射
北朝鮮は連日、ミサイル乱射、海上への砲撃、戦闘機の大量演習を続けている。
11月7日、朝鮮人民軍総参謀部の発表によると、10月31日から11月5日行われた米韓軍事演習「ビジラント・ストーム」に対抗し、「3時間47分にわたって500機の各種戦闘機を動員した空軍の大規模な総戦闘出動作戦」を断行、2~5日の4日間で39発のミサイル(弾道ミサイル14、地対空ミサイル23、巡航ミサイル2)と46発のロケット砲を発射したという。
彼らは米韓軍事演習への対抗措置だと主張するが、4日間で39発のミサイル乱射は常軌を逸している。今年のミサイル発射(11月9日まで)は92発だ。その背景にはなにがあるのか。私はある関係筋から、極秘情報を入手した。実はロシア側から、米国の関心を分散させるため、半島で軍事緊張を高めて欲しいという依頼があったというのだ。
10月1日、ハバロフスクで北朝鮮人民軍とロシア国防省の秘密会談が開かれた。北朝鮮からは李泰燮(イ・テソプ)総参謀長らが参加したという。
そこで、ロシア側は米国のウクライナへの関心を分散させるため朝鮮半島で軍事的緊張を最高度に高めることと、北朝鮮が保有する放射砲砲弾の提供などを要請し、見返りとして年間10万トンの精製された石油(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)を提供、ウクライナ戦争終了後には最新鋭戦闘機を提供すると提案した。金正恩総書記は石油と最新戦闘機が欲しいのでこの提案を歓迎。北朝鮮は、局地戦は出来ないがミサイル乱射などそれ以外の方法で軍事的緊張を高めると約束した。
常軌を逸した人民軍の行動はこの密約が背景にあったわけだ。
「試射」「訓練」でもない
北朝鮮が提供することになった砲弾は、1960年代から80年代までソ連からもらっていたソ連製の220ミリと120ミリ砲弾だ。地下倉庫に長期間保管されており、湿気などのため不発が多い。
2010年の延坪島砲撃では不発率5割だった。厳密な検査をして不発ではないと判断されたものだけを中国船に積んで密輸しているという。不発率5割の半世紀前の古い砲弾の見返りに石油をもらうという金正恩にとって大変有利な取引だ。
すでにかなりの量の石油が、ナホトカ港から船で北朝鮮の羅津港に運び込まれている。ナホトカにはシベリアからパイプラインで石油が運ばれていて、大きな石油タンクに保管されている。燃料不足でこれまで満足に空軍演習をすることが出来なかった北朝鮮がここにきて、大量の戦闘機を飛ばしているのはロシアから提供されたジェット燃料のおかげという。
プーチン大統領は戦況が芳しくないウクライナ戦争の局面を打開するため、金正恩総書記に急接近しているのだ。核兵器を使うと公言する二人の独裁者がここにきてお互いの利益のために急接近し、それを習近平の中国が隠れながら一部支援しているという構図が見えてくる。
今年のミサイル発射を振り返ると、11月2日から5日までの39発のミサイル発射が、従来のパターンではないことがわかる。
従来の北朝鮮のミサイル発射には大きく分けて2種類ある。国防科学院による開発段階での「試射」と、完成して軍に引き渡され実戦配備後の人民軍による「訓練」だ。
核ミサイル開発は人民軍が担当していない。労働党中央委員会の軍需工業部が担当する。同部の下で実際の開発にあたっているのが国防科学院だ。だから、国防科学院が完成していないミサイルを実験のために発射するのは「試験発射」「試射」と発表される。そして、開発が終わるとミサイルは人民軍に引き渡され、実戦配備される。
それから発射される場合は、実験ではなく軍事演習になるので、人民軍による「訓練」とされる。その区別は明確だ。