「トリプル危機」を無視する選良たち|湯浅博

「トリプル危機」を無視する選良たち|湯浅博

日本はロシアの侵略戦争、中国の台湾恫喝、北朝鮮のミサイル乱射のトリプル危機の最前線にある。ところが国会の選良たちは、国内スキャンダルの泥仕合に明け暮れて、国家や国民を守る気概もない。


安倍晋三元首相が指摘したように「台湾有事は日本有事」に直結し、岸田文雄首相が述べたように「今日のウクライナは明日の東アジア」になり得る。日本はロシアの侵略戦争、中国の台湾恫喝、北朝鮮のミサイル乱射のトリプル危機の最前線にある。日本は総力を上げて戦争を抑止しなければならない緊急事態を迎えている。ところが国会の選良たちは、国内スキャンダルの泥仕合に明け暮れて、国家や国民を守る気概もない。

早まる?台湾侵攻の時期

わが列島の周囲を見渡せば、地政学上の過酷な環境に置かれていることが分かる。ロシアに侵略されたウクライナは、米欧の結束と支援がなければ、とっくに政権が崩壊していたはずだ。もしもロシアがこの戦争に勝てば、中国の習近平国家主席の台湾侵略のお膳立てをすることになる。戦争の局面が変化したのは、米欧からウクライナに供与された高性能兵器によるところが大きい。プーチン体制の終わりがささやかれ、クーデターがあり得るという説さえ飛び交う。その過程でどんな不測の事態が起きるのか予測できず、日本も北の守りを固めなければならない。

他方、習政権は「制限なし」の友情で結ばれた同じ独裁国家のロシアを失えば、米軍を「欧州正面」に引き付けられなくなり、「アジア正面」で米中新冷戦を単独で戦わなければならない。習政権にとって、ロシアが「米国支配の世界秩序」を変えるための重要なパートナーであることに変わりはない。習氏は先週の第20回中国共産党大会の政治報告で、台湾問題では「決して武力の行使を放棄しない」と述べて、前回大会では触れなかった武力行使に言及した。

台湾侵攻の時期をめぐっては、米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官が、2027年までにその脅威が顕在化する可能性を示していた。しかし、ブリンケン米国務長官は最近、「中国はずっと早い時期の統一を追求する決断をした」と、時期が早まる可能性に言及した。続いて、ギルデイ海軍作戦部長も、「2022年あるいは23年の(侵攻)可能性を考慮しなければならない。私はそれを排除できない」と警戒感を示している。

あきれた国会審議

ところが、日本の国会はそうした危機感を国民と共有していない。それは、衆参両院の予算委員会で先週4日間行われた質疑を見れば明らかだろう。読売新聞の集計によると、計28時間の質疑のうち、最も多くの時間が割かれたのは旧統一教会をめぐる問題で、7時間20分だった。次いで物価高など経済対策が6時間30分、そして外交・安全保障はわずか2時間20分というありさまだ。

予算委質疑では、自民党の萩生田光一政調会長が、日本へのミサイル発射を抑止する「反撃能力」の保有への決意を求めたぐらいで、野党を巻き込んだ危機対処の議論が起こらない。大局を見ることができないのは、周りを敵兵に囲まれながら、塹壕の中で賭け事に禁じ手を使ったかどうかでもめている兵士のようではないか。(2022.10.24国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


教科書に載らない歴史|なべやかん

教科書に載らない歴史|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

統一教会への解散命令で、政教分離のあり方に注目が集まっている。 日本の政教分離は、世界から見てどうなのか――。


最新の投稿


埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】

埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。