米国、英国、オーストラリア3カ国が昨年9月に創設した安全保障パートナーシップの枠組み「AUKUS(オーカス)」の下では現在、豪州海軍の原子力潜水艦取得計画が進行している。3カ国はこれに加えて4月5日、AUKUSの一環として極超音速兵器の開発でも協力すると発表した。AUKUS創設の背景には、中国による太平洋、南シナ海、インド洋などへの覇権拡大に対する米豪の強い懸念があり、英国をこの地域の安全保障に重層的に結びつけるという狙いがある。ミサイル開発でも協力を始めるとの今回の発表は、100年以上にわたり紐帯関係にある米英豪が、揃って中国に対する抑止強化に更に踏み込んでいくという意志の表れであろう。
クアッドと相互補完
AUKUSに対する日本の姿勢については、昨年9月に当時の茂木敏光外相が「インド太平洋地域への関与を強化するという意味で、AUKUSの創設を歓迎する」と述べているが、日本としてどう関わっていくかの表明はいまだにない。台湾有事においては日本も必然的に有事になり、多大な影響を受けるが、米国の台湾防衛に加えて、AUKUSの枠組みとして英豪が平時から関与することは、日本の安全保障にとっても極めて大きな支えとなる。この観点からも、AUKUSに対しての日本の立ち位置を明確にすべきではないのか。
AUKUSの参加国拡大に関して問われた英軍制服トップのカーター参謀長は「AUKUSは排他的に設計されていない」と答えている(豪公共放送ABC、2021年10月21日)。AUKUSへの参加形態は、全面的な参加から、連携の対象とされるサイバー、人工知能(AI)、量子技術など、機能を絞った形での参加まで多様性があるものと認識する。我が国がこれまで取り組んできた日米豪印の安保協力枠組み「クアッド」を含め、AUKUSを活用した重層的、相互補完的な安全保障体制を構築するという姿勢が必要ではないだろうか。
議論を通じ関わり方が見えてくる
もちろん課題はある。例えば、AUKUSの3カ国は情報分野の同盟とも言える「ファイブアイズ」(3カ国のほか、カナダ、ニュージーランドで構成)の中核メンバーである。だからこそ原潜技術の共有も可能になるのであるが、そこにスパイ防止法も制定されず、機密保持に疑問が付きまとう日本が加われるのかとの指摘もある。ただ、ジョンソン英首相はファイブアイズへの日本の参加について2020年9月16日、「私たちが考えているアイデアだ」と発言している。ファイブアイズのメンバーでなくとも、AUKUSに参加する扉は閉ざされていないと見ていいだろう。
課題は乗り越えるためにある。全ては、わが国の安全保障を確実にし、抑止力を強化するためである。取り得るあらゆる努力を惜しまず、積極的に議論、検討、調整を進める中で、AUKUSへの関わり方において画期的な方策が見えてくることもある。前に進まねば、何事も始まらない。(2022.04.11国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)