ウクライナが日本に教えてくれる“世界の現実”|門田隆将

ウクライナが日本に教えてくれる“世界の現実”|門田隆将

憲法9条の改正も未だできず、自衛隊も“違憲状態”で、集団安保体制が築けない日本――ウクライナがロシアに侵攻された経緯をたどりながら、日本の存続のために何が必要なのかを見つめ直す。


もはや「あり得ない」日本人の思考

日本人はウクライナの危機を“わがこと”として受けとめているだろうか。容赦のない国際社会の現実――私はそのことを考えながら、日々、刻々と移るウクライナ情勢に注目している。
 
2月14日現在、ロシアはウクライナに戦端を開いてはいない。だが、一触即発であることに変わりはなく、本稿が読者の皆様に届く頃には、ひょっとして事態は急展開しているかもしれない。
 
日本国憲法が「陸・海・空」の戦力の不保持を謳い、交戦権を否定し、憲法学者の約八割が自衛隊を「違憲である」ということをそのままにしてきた日本。アメリカの核の傘の下、平和を享受してきた私たちは今、これまでの姿勢を改めなければならない「時」が来ている。
 
正確にいえば、憲法前文の〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉日本人が、ウクライナ情勢を見ても、それでも「抑止力」を否定し、現憲法を維持するのだろうか、ということである。
 
常に性善説に立った日本人の行動や思考は、もはや「あり得ない」事態に至っていることを早くわかって欲しいと思う。そのことを念頭にウクライナ問題を見てみたい。
 
そもそも、ウクライナはなぜロシアに攻められなければならないのか。
 
ソ連共産党のゴルバチョフ書記長がペレストロイカを押し進め、1989年、ベルリンの壁の崩壊に至り、共産圏が瓦解。1991年、ソビエト連邦も、ロシアやウクライナなど15の共和国に分裂した。

かつて同じソビエト連邦を構成していたロシアとウクライナは別々の国になったのである。だが、厄介なことが生じた。
 
核兵器である。西欧と最も近い位置にあったウクライナには、核弾頭1240発、大陸間弾道ミサイル176基が存在し、独立時点でウクライナは「世界第三位」の核保有国だったのである。
 
ウクライナには、独立直後からロシアやアメリカによって「核兵器を放棄するように」との再三の要請がなされた。米露にとって、ウクライナの核兵器はなんとも「鬱陶しいもの」だったのである。

「非現実的」で「時代遅れ」の理想

Getty logo

今、ウクライナ人が嘆くのは、当時のリーダーが「核兵器放棄」を易々と決断したことである。

1994年12月5日、ハンガリーの首都・ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)会議で署名された議定書で、ウクライナは米・英・露に「国境の不可侵」を保証されたことの見返りに、絶大な抑止力である「核」を放棄した。
 
だが、結果は無惨だった。議定書は国際条約ではないので、それを守る法的義務はなく、核兵器をロシアに引き渡したウクライナに待っていたのは、ロシアによる「侵略」という現実だった。

かつてのソ連邦復活を目論むプーチン氏によって、2014年にはクリミアが併合され、ロシアとの国境沿いのドネツク州とルガンスク州でも親露派の武装勢力が蜂起。州の重要施設を占拠した武装勢力とウクライナ正規軍との戦いが惹起された。
 
2015年2月12日、ベラルーシの首都ミンスクでウクライナとロシアとの間で「ドネツク州・ルガンスク州」での停戦合意が調印された。調停に当たったのはドイツとフランスである。停戦はしたものの、散発的な戦闘はその後も続き、ウクライナはロシアとの戦闘ですでに1万3000人を超える国民が犠牲になっている。そして昨年来、ロシアはウクライナ国境に10万の兵力を展開し、虎視眈々とウクライナ侵攻を狙っている。

〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉を信頼することがいかに「あり得ない」ことか、そして、これで〈われらの安全と生存を保持しようと決意した〉日本人の理想がいかに「非現実的」で「時代遅れ」なのか、わかるのではないかと思う。
 
東アジアでは、〈百年の恥辱を晴らし、偉大なる中華民族の復興を果たす〉ために日本に刻々と迫る中国の横暴が顕著だ。

チベット、ウイグル、南モンゴル、南シナ海、香港、そして台湾……着実に日本に迫り、ロシア以上に狡猾かつ傲慢な中国から、どう日本は国民の生命と財産、そして領土を守り抜くのだろうか。
 
憲法9条の改正も未だできず、自衛隊も“違憲状態”で、集団安保体制が築けない日本。
相手に「手を出させない」、つまり「戦争をさせない」ために重要な抑止力も、敵基地攻撃能力をはじめ、中国共産党の強い影響下にある与党・公明党の反対によってなんら進展を見せない日本――ウクライナが陥った経緯を知った上で、国民には自らの存続のために何が必要なのか、よくよく考えて欲しい。
(初出:月刊『Hanada』2022年4月号)

関連する投稿


プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

ウクライナ戦争が引き起こす大規模な地殻変動の可能性。報じられない「ロシアの民族問題というマグマ」が一気に吹き出した時、“選挙圧勝”のプーチンはそれを力でねじ伏せることができるだろうか。


ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

ナワリヌイの死、トランプ「謎の投稿」を解読【ほぼトラ通信2】|石井陽子

「ナワリヌイはプーチンによって暗殺された」――誰もが即座に思い、世界中で非難の声があがったが、次期米大統領最有力者のあの男は違った。日本では報じられない米大統領選の深層!


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

私は、東日本大震災の津波で救えなかった命への後悔から、その後、大学院で津波避難についての修士論文をまとめた。国会議員に立候補したのも震災復興を成し遂げるという意志からであった。だが、災害などの緊急時に対応できる憲法に現行憲法はなっていない――。


速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

戦後の日本は現行憲法のおかしな部分を修正せず、憲法解釈を積み重ねて合憲化していくという手法を使ってきた。しかし、これも限界に来ている――。憲法の不備を整え、わが国と国民を憲法によって守らなくてはならない。(サムネイルは首相官邸HPより)


最新の投稿


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

昨今の政治状況が多くの日本人の心に危機感を抱かせ、「保守」の気持ちが高まっている。いま行動しなければ日本は失われた50年になってしまう。日本を豊かに、強くするため――縁の下の力持ち、日本保守党事務局次長、広沢一郎氏がはじめて綴った秘話に投票3日前の想いを緊急加筆。