3月16日、ウクライナのゼレンスキー大統領は米議会向けにオンラインで演説した。米国に連帯を呼び掛け、ロシアから侵略を受けているウクライナの悲劇に無関心でいてはいけない、と主張した。全体的に素晴らしい演説だったが、一点だけ、日本人が看過できない問題があった。問題の部分は以下である。
「アメリカの皆様。あなた方の歴史で、今のウクライナ人の気持ちを理解できるような出来事がありました。ウクライナ人は今、あなた方の理解を必要としている。真珠湾を思い出して下さい。1941年12月7日の恐ろしい悲劇的な朝、あなた方を攻撃する航空機で空は黒くなりました」
不適切だったウクライナ大統領の例示
もちろん、ゼレンスキー大統領に日本を批判する意図は全くなく、あくまで「空から攻撃を受ける恐怖」の一例として、米国人にとって分かりやすい出来事を取り上げただけだ。しかし、これによって気持ちを傷つけられた日本人がいるのは事実だ。
ゼレンスキー大統領は、日本軍の真珠湾攻撃とロシア軍のウクライナ攻撃を単純に比較しているわけではない。日米戦争は東アジアの将来に関する意見の違いや利害対立が原因であったのに対し、ロシアによるウクライナ侵略は、何の正当性もない、無法で野蛮、一方的な暴挙である。前者の一場面の記憶を、後者への理解を深めるために使うのは適切でない。
この間違った認識に基づく不適切な例えに対して、どう対応すればいいのだろうか。ウクライナ人である筆者は、日本とウクライナの友好関係を大変大切に思うので、この発言のため日本におけるウクライナの印象が悪くなるのを避けたい。そこで、外交ルートを通じて日本が訂正を求めればいいのではないだろうか。日本からの申し入れは、ゼレンスキー大統領に間違った認識を是正する貴重な機会になると思う。
対外発信で欧米の固定観念を覆せ
同時に、これはゼレンスキー大統領だけの問題ではないということを理解しなければならない。残念ながら、似たような認識を欧米諸国の国民の大多数は持っている。米国のトランプ前大統領も真珠湾攻撃について「邪悪な急襲」と発言している。この間違った認識を是正するには、日本が積極的な対外発信を行うしかないと私は思う。
現実問題として、定着してしまった思い込みは、積極的な是正の動きがない限り、延々と存在し続ける。また、欧米諸国においては、固定観念にとらわれていない人はごく一部だ。こういう人が自主的に動き、諸国における第2次世界大戦での日本の評価を変えることは期待できない。だからやはり、誤解されている当事者である日本が誤解を解くために積極的に動くべきだ。(2022.03.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)