水力と原子力の組み合わせが最強―国会で意見陳述|奈良林直

水力と原子力の組み合わせが最強―国会で意見陳述|奈良林直

我が国が政府目標に従い、CO2排出量を46%減らして再エネ比率を上げても、CO2の排出係数が改善しないことは、ドイツの例を見れば明らかだ。


参議院の「資源エネルギーに関する調査会」に参考人として招かれ、国基研のエネルギー問題研究会による政策提言「脱炭素の答えは原発活用だ」(令和3年4月12日)の基になった具体的なデータを用いて意見陳述をした。エネルギー問題研究会は、気候変動枠組み条約の交渉に加わった有馬純東大特任教授らの参加を得て、工学分野だけでなく、経済、防衛の視点も盛り込んで大所高所から政策提言をしたものだと説明した上で、次のような意見を述べた。

再エネで改善しないCO2排出係数

「我が国の太陽光発電能力は世界3位の67ギガワット(GW)で、100万キロワット(kW)の原子力発電所67基分の太陽光パネルが日本中に敷き詰められている。太陽光はかつて54基あった原発を上回る巨大電源になった。1位は中国の254GW、2位が米国の74GW、4位はドイツの54GWだ」

 「しかし、これらの国は、1キロワット時(kWh)の電気を発電するのに何グラムの二酸化炭素(CO2)を排出するかという排出係数では世界の後進国だ。太陽光など再生可能エネルギーの比率が20%の日本は、1kWの電気ポットで湯を1時間沸かすと534グラムのCO2を排出する。原発を止めて、液化天然ガスと石炭火力の発電が75%を占めるからだ。再エネ比率が40%を超えたドイツは472グラムで、日本と大差ない。我が国が政府目標に従い、CO2排出量を46%減らして再エネ比率を上げても、CO2の排出係数が改善しないことは、ドイツの例を見れば明らかだ」

「排出係数が少ないのはノルウエーの13グラム、スイス42グラム、スウェーデン46グラム、フランス70グラムなどで、水力や原子力発電の比率が高い国が上位を占める。その次が風力発電の比率が高い国だ。カーボンニュートラル(CO2排出量の実質ゼロ)の達成には、水力と原子力の組み合わせが最強である」

「良識の府」を感じさせた議員の質問

 議員からは「良識の府」を感じさせる質問が相次いだ。原発事故を起こした時の放射性物質による汚染についての質問(山添拓議員=日本共産党)には、放射性物質を漉し取るフィルターベントの役割を説明した。

電力の安定供給に関する質問(杉久武議員=公明党)には、火力発電所や原発の蒸気タービンの回転エネルギーにより電力系統を安定させている事実を説明した。高レベル放射性廃棄物のゴミの問題についての質問(舟山康江議員=国民民主党・新緑風会)に対しては、使用済み核燃料の再処理で高レベル廃棄物の有害期間は10万年から8000年に短縮され、小型モジュール炉(SMR)の一つ、小型高速炉(PRISM)を使うと有害期間は300年に短縮できると答弁した。

原発の新増設や建て替えがなく、廃炉しかない場合の優秀な人材の確保方法(梅村聡議員=日本維新の会)については、SMRなど夢のある新しい原発の開発が重要だと答えた。SMRなど最新型原発による電力安定供給の見通し(塩村あやか議員=立憲民主・社民)についても、再エネの電気出力の不足分を速やかに補うことができる再エネ共生型SMRの開発を提案した。(2022.02.21国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

役に立たない日本学術会議は要らない|奈良林直

新会長に選ばれた光石衛(まもる)・東京大学名誉教授(機械工学)は、菅義偉前首相が任命を拒否した6人について「改めて任命を求めていく」と語っており、左翼イデオロギーによる学術会議支配が今も続いていることが分かる。


【陸自ヘリ墜落】自衛隊の装備品だけでなく予備品の大幅増額を|奈良林直

【陸自ヘリ墜落】自衛隊の装備品だけでなく予備品の大幅増額を|奈良林直

今年4月、沖縄県の宮古島周辺で発生した陸上自衛隊のヘリコプターUH60JAの墜落事故。原因究明が急がれるが、筆者は、「あること」に気がついた。もし、れに気が付かず、改善されなければ、また新たな事故が……。


「汚染魚食べろ」「人が住めない土地」「Fukushima Water」日本共産党の風評加害は組織的に行われていた|松崎いたる

「汚染魚食べろ」「人が住めない土地」「Fukushima Water」日本共産党の風評加害は組織的に行われていた|松崎いたる

日本共産党の度重なる風評加害の源泉は志位委員長による公式発言にあった!共産党が組織的に福島を貶め続ける理由は何か?『日本共産党 暗黒の百年史』の著者、松崎いたる氏による「ここが変だよ共産党」第8弾!


最新の投稿


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


【今週のサンモニ】高橋純子氏の的外れなナベツネ批判|藤原かずえ

【今週のサンモニ】高橋純子氏の的外れなナベツネ批判|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

突然、月8万円に……払いたくても払えない健康保険料の実態の一部を、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの新著『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より、三回に分けて紹介。


【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

税金の滞納が続いた場合、役所が徴収のために財産を差し押さえる場合がある。だが近年、悪質な差し押さえ行為が相次いでいるという(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

いまもっぱら話題の「103万円、106万円、130万円の壁」とは何か。そしてそれは国民健康保険料にどう影響するのか(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。