「党を、習主席を愛しています!」
「党を愛しています! 習主席は偉大な最高指導者です!」
「頭の中にあるウイルスを取り除こう!」
強制収容所に送り込まれたウイグル人が、ノートに書くこと、唱和することを強要されているのがこのフレーズだ。毎日、毎日、監視の下、このフレーズだけを繰り返すよう求められ、少しでも「疑問を呈した」と監視員側に受け取られれば、それがたとえちょっとした表情の変化であっても厳しい懲罰が待っている。
中国共産党は、ウイグル人に対して「党に反抗的な態度」や「独立運動」といった外からもわかる言動を取り締まるだけでは飽き足らない。「頭の中にあるウイルス」とは、ウイグル人たちのルーツ、生活様式、文化、歴史、宗教を指す。
「中国共産党への忠誠」を誓わせることによって、それ以外の思想、精神を根絶やしにしようとしていることが、ジェフリー・ケイン著、 濱野大道訳『AI監獄ウイグル』(新潮社)から、これでもかというほどに伝わってくる。
実に野蛮で原始的なやり方だ。だが共産党はこうしたアナログな「洗脳」をする一方、先端テクノロジーを駆使した強固な監視システムによって、ウイグル人の行動を取り締まる。しかもそこには、AIによる「予測」まで含まれる。党にとって不都合な「何か」をするはるか手前の段階で、「何かしそうな人物」と判断されれば即座に監視網にとらえられ、身柄を拘束されるのだ。
『AI監獄ウイグル』という本書のタイトルはまさに、端的に現在のウイグルが置かれた状況を表している。
監視員と自宅で同居
「そうは言うけれど、弾圧を示すものは証言しかないじゃないか」
ウイグル弾圧をめぐる告発に常に付きまとう物言いだが、本書は多くのウイグル人の証言を得、しかも同じ人物に何度も証言内容を確認することで、創作や過剰な「演出」を排す努力が施されている。
強制収容所の中の詳細な描写、あるいは自身や家族への監視の網が徐々に張り巡らされていく様子は、メイセムという女性の証言を中心に紹介されている。
家の壁の色が、東トルキスタン復興を目指す独立派の色だと注意され、赤く塗れと当局から迫られる。メイセム自身は収容所へ送られ、残された実家には「監視員」が送り込まれ、衣食住を共にすることを強いられる。
そして監視カメラや顔認識技術、ビッグデータの解析といったテクノロジーによって、ウイグル地区全体が逃げ場のない「AI監獄」と化していく様は、イルファンという技術者の男性の体験を通じて語られる。
二人とも、中国共産党に対して敵対的な思想を持っていたわけではない。むしろ、メイセムは「中国という祖国のために働く」外交官を目指し勉強していた学生であり、イルファンは国内の治安維持にかかわる、高給を得られる仕事に誇りを持っていた。
だが中国共産党は、こうした若いウイグル人が持っていた「祖国のために」という純粋な気持ちを踏みにじり、彼らを敵視し、ついには洗脳によって「ウイグルらしさ」を捨てさせようとする。内心の自由さえ認めないのだ。
「奴らが体制に打撃を与えるのではないか」という疑心暗鬼が高じると、人間はこうも残酷になれるのかと暗澹たる気持ちになる。