真水30兆円はギリギリの最低ライン
新型コロナ禍からの経済の反転攻勢のために、岸田政権下で新たな経済対策である「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」が決定され、11月26日に補正予算案が閣議決定された。
しかしながら、まだまだ経済の先が見えないなか、GDPを直接増やす効果のある財政出動の「真水」は約30兆円に留まった。最新の四半期GDPの低迷、いまだデフレ状態であること、GDPギャップ35兆円を考えても、こうした時こそ50兆円規模の思い切った「真水」を打つ必要があったと考えるが、30兆円はギリギリの最低ラインと言える。
私は補正予算編成にあたり、直接的に経済活動やGDPを押し上げる効果の高い「GoToトラベルキャンペーン」への予算の積み増しを行い、早期再開をするべきだと党内で主張したが、政権中枢は慎重な姿勢を崩さず、結局予算の積み増しはほとんど行われなかった。
実は、「GoToトラベル」は昨年、私が観光担当の国土交通大臣政務官であった時に、観光庁の職員とともに立案と制度設計にあたった。新型コロナで深刻な経営状態となった観光・宿泊事業者を支えるため、旅行・宿泊代金の割引支援を中心とする施策である。
これは過去に、熊本地震からの観光・宿泊事業者の復興のために行われた「九州ふっこう割」や台風災害からの復興のための「令和元年ふっこう割」などを参考にして立案したものだ。
そして、これまでの「ふっこう割」は、最大の予算規模でも「九州ふっこう割」の約180億円であったが、「GoToトラベル」は、当初4000億円規模で立案するという、観光庁としてこれまでにない大型キャンペーンとなった。
政権中枢が財務当局を説得!
旅行・宿泊代金を最大で50%キャッシュバックする。多くの人に旅行に行ってもらうことによって、地域の基幹産業である観光需要の回復を促し、地域経済の回復と反転攻勢につなげようという狙いがあった。
「GoToトラベルは観光・宿泊事業者だけを助けるのか?」との指摘もあったが、1つの旅館やホテルには約200の取引業者があり、宿泊事業者を支えることは地域経済を支えることなのである。
そして、地域経済の回復のために、「GoToトラベル」の制度設計にあたっては新たな視点を導入した。それは、旅行先のお土産物店や飲食店などで使える「地域共通クーポン券」の導入である。単に旅行・宿泊代金を最大50%割り引くだけであれば、地域経済に効果があるとはいえ、宿泊事業者関連からの広がりは限定的になるかもしれない。
そこで考え出したのが、直接的に観光地の他の事業者にもお金が入る仕組みだ。旅行・宿泊代金は最大35%の割引率とし、残り15%を「地域共通クーポン券」とした。地域の観光関連産業全体を一括で支える仕組みとしたのである。
こうした制度設計を行っている最中に驚愕の出来事が続いた。
途中経過を政権中枢に説明に行くたびにその予算規模が増えていったのである。これは当時の菅義偉官房長官の考えが大きいが、新型コロナ禍の苦境を脱するため、より大きな効果を出すためには4000億円の倍額の8000億円位の規模は予算額として確保しなくてはならないというものであった。
最終的に政権中枢が財務当局を説得し、総予算額1兆3千億円という未曽有の大キャンペーンとなったのである。