極超音速兵器にどう備えるか|太田文雄

極超音速兵器にどう備えるか|太田文雄

米海軍はグアム島に攻撃型原子力潜水艦を配備し、南シナ海から米本土を狙う中国の弾道ミサイル原潜を攻撃する構えを見せているが、北朝鮮の旧式潜水艦に対しては、日本に任せたいのが本音であろう。


北朝鮮は19日、大気圏内で変則軌道を描く弾道ミサイルを潜水艦から試験発射した。先月28日には極超音速兵器(Hypersonic Glide Vehicle=HGV)とみられる火星8型ミサイルを陸上から発射している。

変則飛行が特性のHGVは、弾道ミサイル防衛網を突破できるいわゆるゲームチェンジャーとして、ロシアが1990年代後半から開発に着手し、これまで陸上からのみならず水上艦や潜水艦からの発射に成功している。また英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国は8月に核弾頭を搭載できるHGVを地球周回軌道から試験発射した。やや遅れ気味の米国は、20日に陸海軍がHGVの実験に成功した。こうしたHGV開発に日本はどう対応しようとしているのか。

衛星コンステレーションの研究進む

現在、日本が保有している弾道ミサイル防衛システムは、大気圏外で迎撃するイージス・システムと落下直前に迎撃するPAC3から構成されている。北朝鮮が先月発射した火星8型や19日に発射した潜水艦発射ミサイルは大気圏内を飛行するため、イージスでは迎撃できない。また、変則軌道で飛行するので、PAC3による迎撃も困難である。

現在、防衛省では、HGVを宇宙から多数の衛星で探知・追尾する「衛星コンステレーション」、長時間の警戒監視が可能な滞空型無人機、弾丸を高初速で連続発射できるレールガン、HGV用シーカー(探知・追尾装置)の研究予算を来年度の防衛予算に計上している。

こうした研究がいつ実用化できるかは不明であるが、少なくともそれまではミサイル発射源を攻撃する能力が必要となる。なおHGVや大気圏を変則飛行するミサイルが出現したら、これまでのイージス・システムは予算の無駄遣いとなるのか、と言えばそんなことはない。北朝鮮をはじめとして多くの国の弾道ミサイルの大半はイージス・システムで対応できるのである。

ミサイル潜水艦には攻撃型潜水艦で対処

しからば19日に北朝鮮が行ったような潜水艦からの弾道ミサイル発射にはどう対処すべきか。潜水艦は大別して、弾道ミサイルを発射する潜水艦と、敵の潜水艦や水上艦を攻撃する潜水艦がある。今回、北朝鮮が弾道ミサイル発射に利用したと報じられている「8.24英雄艦」は、旧ソ連が第2次世界大戦中に開発した古い潜水艦で、ノイズレベルは極めて高い。こうした潜水艦が外洋に出れば、日本の潜水艦の探知するところとなり、水面近くに浮上してミサイルを発射しようとする直前に攻撃することができる。

米海軍はグアム島に攻撃型原子力潜水艦を配備し、南シナ海から米本土を狙う中国の弾道ミサイル原潜を攻撃する構えを見せているが、北朝鮮の旧式潜水艦に対しては、日本に任せたいのが本音であろう。(2021.10.25国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」――アメリカに本部を置く北朝鮮人権委員会が発表した報告書に記された衝撃的な内容。アメリカや韓国では話題になっているが、日本ではなぜか全く知られていない。核開発を進める独裁国家で実施されている「現代の奴隷制度」の実態。


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

阪神地区で唯一の海上自衛隊の拠点、阪神基地隊。神戸市や阪神沿岸部を守る拠点であり、ミサイル防衛の観点からもなくてはならない基地である。しかし、この阪神基地隊の存在意義を覆すような驚くべき文書が神戸市で見つかった――。


速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

戦後の日本は現行憲法のおかしな部分を修正せず、憲法解釈を積み重ねて合憲化していくという手法を使ってきた。しかし、これも限界に来ている――。憲法の不備を整え、わが国と国民を憲法によって守らなくてはならない。(サムネイルは首相官邸HPより)


最新の投稿


【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!


【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか  増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか 増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)