まさに「対中防災」の書
相手の真の姿を知らずしては闘えない。脅威の度合いを過大に見積もったり、あるいは逆に政治体制の違いからその能力を不当に低く見積ったりしてしまうと、中国という「災害」から身を守ることはできなくなる。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
孫子『兵法』でも最も有名な一節であり、『兵法』が日本に伝わってから1300年近くたつわけだが、中世の戦争でも、現代の経営学でもこれでもかというほど繰り返し説かれてきたこの本質を、日本は中国に対してどこまで徹底できているか。
日本だけではない。かつてはアメリカの学者たちも「中国は豊かになれば民主化する」と信じ込み、今になってその予測が間違っていたことを直視せざるを得なくなっている。
中国を正しく知ることは、ある意味でハザードマップを手にすることに等しい。この夏も大雨等による災害が発生しているが、どこが災害になりうるか、発生のメカニズムを知り、防災用品や非常食などを備えておくことは重要だ。災害を侮って丸腰でいれば災害を防げないのは当然だが、その土地の特性も知らず、頓珍漢な備えをしていても意味はない。
中川氏が自身の著作を「防災の書」と位置付けるのは、それゆえだ。中国を「正しく恐れ」、中国と「正しく競う」には、客観的な中国分析と、備えが必要になる。
本書は対中戦略構築において、感情論という「霧」を晴らし、解像度の高い中国分析を手にする一助となる。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。