組織論的に分析する「中国共産党」の実態
例えば、「中国共産党を中国社会はどう位置付けているか」。
テクノロジーと人海戦術で監視網を張り巡らせ、人民の暴動、党への反乱を防ぎ、党の意向に背けばたちどころに拘束されるという暗黒社会を国民に強いる悪玉組織のように考えがちだ。
中川氏も〈党に歯向かうものには容赦しないという怖い顔を持っている〉としながら、〈エキセントリックな手法は最早望まず、安定的な統治に腐心している存在ととらえた方が実際に近い〉と、共産党が併せ持っている性質をドライに解説している。
え、そうだろうか、と思うかもしれない。この共産党の仕組みに関してはぜひ本書を読んでほしいが、読めばその疑問は「なるほどそういうことなのか!」という感触に変わるはずだ。また、中国共産党という存在が、私たちにとっての自民党や共産党のような「政党」の在り方とは根本的に違うことにいまさらながら気づかされもする。
こうした捉え方をするからといって、もちろん中川氏が中国的統治を「民主主義よりも優れたものである」とか「強権的でなく自由で素晴らしい社会だ」と肯定的に評価しているわけでは全くない。
「頭ごなしの否定以外の中国分析」を「こいつ、親中か?」と感じてしまうようならば、それは読み手側のチューニングが必要だろう。そうした「霧」は対中分析を誤らせ、ひいては日本という国を危うくしかねない。
そうした「霧」が、「自由のない中国社会ではイノベーションは起こせない」などという、今では誤りだったことが明確になった「希望的観測」を生むことにつながるのだ。
米中対立とデジタル人民元
全編、赤線を引きまくりたくなる衝動に駆られるが、とりわけ第三章の「軍」と「媒体(メディア)に関する解説は必読だ。
また最終章では、「米中新冷戦」ならぬ、「米中新混沌」と題し、米ソ冷戦時代とは全く異なる構造を持つ現在の米中のあり様を解説。その中で中国がアメリカを超える、あるいはアメリカの干渉を軽減するためのひとつのツールとして用意している「デジタル人民元」にも触れている。
これに関しては同じ中川氏の『デジタル人民元 紅いチャイナのマネー覇権構想』(ワニブックスPLUS新書)にさらに詳しく書かれているので一読をお勧めするが、「どうせ失敗するに決まっている」「あんなインチキ経済指標連発の中国のデジタル通貨なんて、一体誰が使うんだ」などと侮るなかれ。
チクチクと布石を打ち、じわじわとその姿が見えてきた「デジタル人民元」は、それだけにかなり恐ろしい存在になり得ることが分かる。