【読書亡羊】中国分析の「解像度」をあげていこう! 中川コージ『巨大中国を動かす紅い方程式』

【読書亡羊】中国分析の「解像度」をあげていこう! 中川コージ『巨大中国を動かす紅い方程式』

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


巨大中国を動かす紅い方程式 モンスター化する9000万人党組織の世界戦略

組織論的に分析する「中国共産党」の実態

例えば、「中国共産党を中国社会はどう位置付けているか」。

テクノロジーと人海戦術で監視網を張り巡らせ、人民の暴動、党への反乱を防ぎ、党の意向に背けばたちどころに拘束されるという暗黒社会を国民に強いる悪玉組織のように考えがちだ。

中川氏も〈党に歯向かうものには容赦しないという怖い顔を持っている〉としながら、〈エキセントリックな手法は最早望まず、安定的な統治に腐心している存在ととらえた方が実際に近い〉と、共産党が併せ持っている性質をドライに解説している。

え、そうだろうか、と思うかもしれない。この共産党の仕組みに関してはぜひ本書を読んでほしいが、読めばその疑問は「なるほどそういうことなのか!」という感触に変わるはずだ。また、中国共産党という存在が、私たちにとっての自民党や共産党のような「政党」の在り方とは根本的に違うことにいまさらながら気づかされもする。

こうした捉え方をするからといって、もちろん中川氏が中国的統治を「民主主義よりも優れたものである」とか「強権的でなく自由で素晴らしい社会だ」と肯定的に評価しているわけでは全くない。

「頭ごなしの否定以外の中国分析」を「こいつ、親中か?」と感じてしまうようならば、それは読み手側のチューニングが必要だろう。そうした「霧」は対中分析を誤らせ、ひいては日本という国を危うくしかねない。

そうした「霧」が、「自由のない中国社会ではイノベーションは起こせない」などという、今では誤りだったことが明確になった「希望的観測」を生むことにつながるのだ。

米中対立とデジタル人民元

全編、赤線を引きまくりたくなる衝動に駆られるが、とりわけ第三章の「軍」と「媒体(メディア)に関する解説は必読だ。

また最終章では、「米中新冷戦」ならぬ、「米中新混沌」と題し、米ソ冷戦時代とは全く異なる構造を持つ現在の米中のあり様を解説。その中で中国がアメリカを超える、あるいはアメリカの干渉を軽減するためのひとつのツールとして用意している「デジタル人民元」にも触れている。

これに関しては同じ中川氏の『デジタル人民元 紅いチャイナのマネー覇権構想』(ワニブックスPLUS新書)にさらに詳しく書かれているので一読をお勧めするが、「どうせ失敗するに決まっている」「あんなインチキ経済指標連発の中国のデジタル通貨なんて、一体誰が使うんだ」などと侮るなかれ。

チクチクと布石を打ち、じわじわとその姿が見えてきた「デジタル人民元」は、それだけにかなり恐ろしい存在になり得ることが分かる。

関連する投稿


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】自民党総裁選候補者、全員の著作を読んでみた!

【読書亡羊】自民党総裁選候補者、全員の著作を読んでみた!

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】データが浮かび上がらせる「元自衛隊員」の姿とは  ミリタリー・カルチャー研究会『元自衛隊員は自衛隊をどうみているか』(青弓社)

【読書亡羊】データが浮かび上がらせる「元自衛隊員」の姿とは ミリタリー・カルチャー研究会『元自衛隊員は自衛隊をどうみているか』(青弓社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。