「対中非難決議」を潰した“影の幹事長”|有本香

「対中非難決議」を潰した“影の幹事長”|有本香

日本共産党の志位委員長に「(文化大革命のときに)いちばん、毛沢東を礼賛したのは公明党だった」と皮肉られた公明党。やはり、「対中非難決議」を潰したのは公明党だったのか。それとも……。有本香氏が「対中非難決議」見送りの内幕を暴く!


悪いのは公明党か自民党か

二階幹事長の右隣が、「影の幹事長」と呼ばれる林幹雄幹事長代理

通常国会が閉会した。永田町は一気に選挙モードである。与野党の議員らは、昨日までの「国会プロレス」などなかったことのようにして、地元へと走っている。
 
筆者の思う、今国会での成果は2つ。憲法改正に不可欠な国民投票法が改正されたことと、重要土地規制法が通ったことだ。特に、10年以上も前から、中国資本による土地買収について取材し、その危険性を訴えてきた身としては、その対策の一助となるであろう「重要土地規制法」には感慨がある。
 
余談だが、11年前、私がこの件を最初に寄稿したのが、本誌編集長・花田紀凱さんが当時手がけられていた雑誌だった。しかしまさか、その対策のワンステップに10年以上もかかるとは思いもしなかった。「それだけ大変なことをやったんだ」と言わんばかりにSNSでのアピールに努める国会議員もいるが、そういう人に限ってほとんど何もしてないというのが「永田町あるある」だったりする。
 
今国会で痛恨の極みとなったことも2つ。1つは、不法滞在等で強制送還となった外国人を速やかに送り返すための入管難民法改正を断念したこと。もう1つが、ウイグル人らへの中国当局による苛烈な弾圧を非難する「決議」が見送られたことである。
 
またも余談となるが、ウイグル問題について私が初めて長文を寄稿したのも、当時、花田さんが手がけていた雑誌だった。あれから12年。日本ではごく限られた人しか知らなかった「ウイグル問題」が、国会決議の俎上に上がったことは感慨深いが、といって、良い意味での感慨ではない。万年平和ボケな日本の国会ですら完全無視はできないほど、ウイグル人の状況が悪化したことの証左でもあるからだ。

「対中非難決議」は、法律の制定や改正ではない。「特定民族への人権侵害は許さない」という考えの表明に過ぎないから、実は「審議」も要らない。にもかかわらず、この決議は見送られた。一方で、ミャンマー国軍による自国民への人権侵害を非難する「対ミャンマー非難声明」は、何の抵抗もなくスルッと国会に出され、あっという間に決議された。

二階幹事長はサインをしようとしたが…

この違いは何か。
 
仮に、他国の人権侵害なんか知らんというなら、ミャンマーの件にも知らんぷりを決め込むはずである。間違った態度ではあるが、一貫してはいる。
 
今般、日本の国会がとった態度はつまりこうだ。おとなしいミャンマー相手なら偉そうに「非難」するが、怖ろしい中国様相手だとダンマリ――。何たる卑劣、最低の低である。一体なぜこんなことになったのか。もっと端的に言えば、一体誰が決議を止めたのか。
 
自民党支持者らは「公明党が潰した」と言っていたが、これは正しくない。たしかに公明党はこの決議に賛成しなかったが、自民党の二階俊博幹事長も結局、この決議文案に「承認」のサインをすることを留まったからだ。対ミャンマーの制裁決議にはすんなりとサインしたにもかかわらず、である。
 
対中非難決議の文案は、数カ月、関係議員らの間を彷徨い続けた。その間に、「中国」という加害国名が削られ、その代わりというわけではないが、「ミャンマー」という国名が付記された奇妙なものに「推敲」された。それでも、「通してほしい」と在日のウイグル人、南モンゴル人らは願った。多少変な文章でもいいから、第二の祖国・日本の意思を見せてほしい。彼らの願いは痛いほどわかった。
 
その思いを汲んで、国会閉会の前日、自民党の下村博文政調会長、古屋圭司元国家公安委員長、高市早苗元総務大臣、長尾敬衆議院議員らが、二階幹事長、林幹雄幹事長代理、森山裕国対委員長をそれぞれ訪ね、「対中非難決議文」の国会提出承認を求めた。
 
その時、説明を聴いた二階氏は、承認のサインをしようとペンを手に取る仕草を見せた。ところが、サインしようとした直前に、「ちょっと待ってください」と止めたのが、林幹事長代理だったという。「二階幹事長の懐刀」「影の幹事長」と呼ばれる人だ。

一切目立たず、影のように二階氏に寄り添い、その「対中外交」をも支え、政治を仕切る仕事師、と一部筋から褒め上げられる林氏は、面会の最後にこう言い放ったと仄聞する。

「あんまりこういうの(ウイグル問題)、興味ないんだよな」
 
中国の軍拡は、日本にとっての大きな脅威である。しかし、「人類史上最悪のジェノサイド」とさえ言われる問題を、「興味がない」の一言で切って捨てる人物が、日本の政治を差配し得る場所にいることのほうが、私たちにとってよリ大きな脅威かもしれない。

(2021年8月号「香論乙駁」)

関連する投稿


憲法改正がなぜ必要なのか|和田政宗

憲法改正がなぜ必要なのか|和田政宗

2022年4月、「危機に乗じて憲法9条を破壊し、日本を『軍事対軍事』の危険な道に引き込む動きを、日本共産党の躍進で断固として止めよう」と訴えた日本共産党の志位和夫委員長。共産党の言う「9条生かした外交で平和をつくりだす」は本当に可能なのか。日本の隣国である中国、ロシア、北朝鮮は果たして「平和を愛する諸国民」と言えるのか。


橋下徹よ、「不戦」はプーチンに言え|有本香

橋下徹よ、「不戦」はプーチンに言え|有本香

「中国をこっちに引き寄せるには、お願いかお土産が先やろ。制裁をちらつかせるのは最後の手段。こんな建前政治は、解決能力なし。ほんまアカン」と橋下徹氏。「ほんまアカン」のはいったい誰なのか? 月刊『Hanada』の大人気連載「香論乙駁」(2022年5月号)を特別公開!


ウクライナが日本に教えてくれる“世界の現実”|門田隆将

ウクライナが日本に教えてくれる“世界の現実”|門田隆将

憲法9条の改正も未だできず、自衛隊も“違憲状態”で、集団安保体制が築けない日本――ウクライナがロシアに侵攻された経緯をたどりながら、日本の存続のために何が必要なのかを見つめ直す。


岸田政権は「習近平国賓来日」に突き進むのか|門田隆将

岸田政権は「習近平国賓来日」に突き進むのか|門田隆将

天安門事件で国際社会から制裁を受けていた中国は、宮澤喜一政権による「天皇訪中」で、国際社会に復帰を果たした。同じ宏池会の岸田政権も、同じ轍を踏むのか――。


“オール沖縄”の敗北と“佐渡金山”深まる対立|和田政宗

“オール沖縄”の敗北と“佐渡金山”深まる対立|和田政宗

《政治家には言えないから僕が言うが、日本の有権者はかなり愚かだ》。昨年の衆院選の結果を受けての前川喜平氏のツイートだが、“オール沖縄”が敗北した名護市長選においても同様の考えなのだろうか。1月27日、前川氏は《佐渡金山についても明治産業遺産についても、まず負の歴史の存在を認めるのが「冷静な判断」だ》と投稿。事実でない「歴史の書き換え」や反日的イデオロギーに加担する勢力に屈することなく、日本は歴史的事実に基づき堂々と申請を行うべきだ。


最新の投稿


なべやかん遺産|「淡路島のシン・ゴジラ」

なべやかん遺産|「淡路島のシン・ゴジラ」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「淡路島のシン・ゴジラ」!


参院選に暗雲!逃げずに正面から原発再稼働、憲法改正を訴えよ!|和田政宗

参院選に暗雲!逃げずに正面から原発再稼働、憲法改正を訴えよ!|和田政宗

酷暑のなか、もし電力が止まり冷房が止まってしまえば、命の危機にもつながる。国民は根本的な対応を求めており、もしそれを打ち出すことができなければ、大変な結果が待っているだろう。この1週間が決断すべき期間である。正面から訴えるべき政策については堂々と国民に訴えるべきだ。


【橋下徹研究⑪】「副市長案件」弁明の崩壊と橋下市長関与の証明|山口敬之【WEB連載第11回】

【橋下徹研究⑪】「副市長案件」弁明の崩壊と橋下市長関与の証明|山口敬之【WEB連載第11回】

6月20日以降、ツイートがない橋下徹氏。ほとぼりが冷めるまで待つ方針かもしれないが、いつまで「副市長案件」で逃げ切るつもりなのだろうか。「副市長案件」「遊休地だった」と抗弁する橋下氏の弁明には何の説得力もないどころか、事実を歪曲し隠蔽する悪意がはっきりと浮き彫りになっている――。【※サムネイルは『実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた』 (PHP新書)】


【大募集!】#わたしのにゃんこ四字熟語

【大募集!】#わたしのにゃんこ四字熟語

『にゃんこ四字熟語辞典』が大ヒット。それを踏まえて、新しい「にゃんこ」企画をスタートいたします!


「米国による平和」は終わった|田久保忠衛

「米国による平和」は終わった|田久保忠衛

10年以内に中国は米国よりも強くなると見るドイツ人は56%に達しており、米国は頼みにならないので欧州の防衛に投資すべきだと考える向きは60%に及んでいる。