日の丸ワクチンを作る最後のチャンス|木村盛世

日の丸ワクチンを作る最後のチャンス|木村盛世

「ワクチン接種もワクチン開発も国防」との意識が日本はあまりにも低すぎる!なぜ日の丸ワクチンができないのか?ワクチンを巡る国民の疑問に元厚労省医系技官の木村盛世氏が答える。


アメリカ大統領「ワクチンを備蓄しろ」

2001年には、アメリカ空軍による天然痘生物テロのシミュレーション(コードネーム:ダークウィンター)が行われた。指揮したのは、WHO天然痘根絶チームを率いたD・A・ヘンダーソン博士。彼は、その時のことを私に「大統領はダークウィンターを見て驚いた。アメリカがバイオに対して無力であることを知ったので、私にとにかくワクチンを備蓄するように命じた」と話した。  

その後、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は、全国民の天然痘ワクチンを用意し、接種を開始したが、天然痘ワクチンは有効性は高いが副反応(有害事象)が多かったため、全国民への接種は途中で頓挫した。有害事象に関してヘンダーソン博士に尋ねたところ、その回答は明確だった。

「有事の際、そんなことは無視しろ」  

この言葉は冷酷なようだが、危機管理として当然の発言だと思う。すなわち、国が感染症の脅威に直面した場合、一部の健康被害が発生したとしても、ワクチンが集団を救うのであれば、それを優先するということになる。これが危機管理としてのワクチンの役目である。  

このように感染症を取り巻く状況は、オウム真理教の生物テロ事件以来、大きく様変わりしてきた。  加えて、先述したように、新型インフルエンザ、SARS、MERS、エボラ出血熱など新たな感染症が現れており、新規の病原体に対する効果的なワクチン開発は、国の危機管理の一つとなってきた。

ワクチンの効果判定はどのようにして行われるのか?

ワクチンの効果判定は、ランダム化比較試験(RCT)という疫学手法を用いて行われる。これは、ワクチンを打つグループと打たないグループに分けて、二つの群での感染割合の違いによって有効性を評価する。ワクチンを打ったグループの感染確率が打たないグループと統計学的に比較して少なければ、そのワクチンの有効性があるとして評価される。  

実用化されているワクチンの有効性はこのようにして評価されており、ワクチンを打った人は一定程度、新型コロナウイルスの感染から免れることが期待されている(厳密にいえば、一定期間、新型コロナの症状を呈さない)。  

効果判定について順を追って説明すると、まず実験室で開発され、動物実験での予防効果が認められたワクチンは、ヒトでの効果判定が行われる。その第一段階がフェーズ1である。  

フェーズ1では、少人数(通常200~300人程度)で安全性や有効性を確認する。   

次のフェーズ2では、さらに年齢や性別で投与量を変えて試験を行う。フェーズ2で薬効性と安全性が確認されたワクチンは、実際の使用条件を考慮した大規模な臨床試験であるフェーズ3に移る。  いま使用されている新型コロナウイルスに対するワクチンは、いずれも海外で開発されたものであり、実用化においてはフェーズ3を経ている。  

フェーズ3は、治験のなかでもっとも重要なプロセスである。というのも、実際にワクチンを使用したのと似た環境において、ワクチンの有効性が試されるからである。大規模な人数によるフェーズ3は、市場にワクチンが出回った際の有効性を見極めることになる。

大規模治験の経験がない日本

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