今、国会では、送還忌避者(退去命令を受けながら送還に応じない外国人)の処遇などに関する出入国管理法改正案をめぐり、与野党が激しく対立している。
国基研は平成30年12月、外国人労働者の受け入れを拡大する前回の入管法改正の際、中国人永住者が急増していることに危機感を持ち、永住許可条件の厳格化を求める提言を行い、参議院はその問題意識を共有して永住許可審査の厳格化を求める付帯決議を付けて同改正案を成立させた。
今回の入管法改正案でその観点が全く生かされなかったのは残念だ。外国人政策は、人権擁護と国益という二つの観点を十分考慮して推進されるべきだ。
増加する退去拒否者
今回の改正案をめぐる議論は、国益への目配りが不十分だと言わざるを得ない。マスコミの多くは改正案に反対するいわゆる「人権派」の声を多数報じている。(驚いたことに、東京弁護士会は令和2年に、全ての送還忌避者に就労ビザを与えよという提言をしている)。しかし、人権派の意見だけでは全体像は分からない。
改正案提出の理由は、「退去命令を受けたにもかかわらず送還を忌避する人が後を絶たず、収容長期化の要因となっている」(上川陽子法相趣旨説明)ことなのだ。
法務省によると、令和2年末の送還忌避者は約3100人(収容約250人,仮放免約2440人,逃亡手配約420人)であり、そのうち1年を超える実刑判決を受けた者が約490人、難民認定申請3回以上の者が約540人だ。収容者数も増えている。平成30年6月末現在で、1494人が収容されている(うち6カ月以上の長期収容者704人)。25年末には収容者914人だったから、5年で約1.5倍に増えた。収容者医療費も、25年に1億2323万円だったのが、29年に2億4419万円と倍増している。