北朝鮮では今、すさまじい食糧難が発生し、首都平壌を含む全国で餓死者が続出している。軍将校、安全員(警察)、保衛員(政治警察)の家族への食糧配給が昨年11月頃から止まり、今年6月からは本人への配給も止まった。兵士も乏しい食事で飢えている。このような飢饉の状況を日本と韓国のマスコミはほとんど伝えていない。
韓国には北朝鮮内部と随時連絡を取っている脱北者人権活動家らがいる。北朝鮮向け短波ラジオを主宰する金聖玟自由北韓放送代表もその1人だ。金代表が7月初め、北朝鮮内部の複数の情報源から聞いた飢饉の状況を紹介する。
崩壊した食糧配給制
北朝鮮では1995年から98年頃までに300万人以上が餓死した。それを「苦難の行軍」と呼んでいる。その後、食糧配給制は完全に崩壊した。2002年7月、金正日政権は配給所に米が回ってくるようにしようと、米の国定価格を実態に合わせ、1キロ当たり8銭(0.08ウォン)から44ウォンに改め、従来の無償に近い配給制を適切な価格の配給制に転換した。しかし、配給は再開されなかった。平壌市民を除く北朝鮮住民は、90年代半ばから現在まで、正月と金日成主席、金正日総書記の誕生日に若干の食糧を無償でもらうだけで、ずっと配給を受けていない。
人々はチャンマダン(市場)で国定価格の100倍以上の1キロ=5000ウォン程度で米を買うしかなくなり、皆が生き残るため市場での商売に励むようになった。
2021年1月の第8回党大会以後、金正恩政権は新しい糧穀制度を導入した。食糧の価格と流通を国家が統制、管理するため、全国に糧穀販売所を設置し、市場価格より20~30%ほど安く食糧を供給するとした。しかし、経済制裁、新型コロナウイルスの流行などの影響で食糧危機が加速し、生産される全ての穀物を軍と保衛部、平壌市中心区域に集中させたことから、2021年から2022年中旬まで地方では、地域ごとに異なるが1カ月に5キロ程度しか販売所を通じて家庭に供給されなかった。