話は若干それるが、尖閣諸島周辺に石油資源が埋蔵されているのではないかとの騒ぎが持ち上がった1969年、沖縄県石垣市の石垣喜興市長(当時)が同諸島に上陸し、市の行政区域であることを明示する標柱を設置した。ところが年月がたつうちに標柱が劣化し、表面の字も正確に判読できなくなった。そこで、昨年6月に尖閣諸島の字あざ名「登野城とのしろ」を「登野城尖閣」と改めることを決めた市議会は、同12月に新しい字名を記した標柱の設置を求める決議を賛成多数で可決した。
中国は石垣市の一連の動きを常に注意深く監視しているのだろう。中国外務省の趙立堅副報道局長は「(石垣市の行動は)中国の領土主権への深刻な挑発で、非合法かつ無効だ」と強調し、「日本側に厳重に抗議した」と述べた。在日中国領事館員と称する人物からは、尖閣諸島の字名変更に抗議する電話が石垣市に再三入っている。
石垣市は標柱設置のため尖閣上陸の希望を日本政府に伝えているが、何の反応もないという。日本政府は一体何を恐れているのだろうか。
海警法に対抗する当面の法整備に手を着けず、さりとて長期的な対応も考えず、いたずらに時の経過を待つだけで、ひたすら米政府に日米安保条約の適用を頼み込む。日本国憲法の限界は誰の目にも明らかになってきた。(国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国家基本問題研究所副理事長。1933年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、時事通信社に入社。ハンブルグ特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。1992年から杏林大学で教鞭を執る。法学博士。杏林大学名誉教授。専門は国際政治。国家基本問題研究所副理事長。美しい日本の憲法をつくる国民の会共同代表。著書に『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』など多数。