“歴史的な”大統領選
アメリカ大統領選のありさまを見て、多くの人は「マスコミってこんなものか」と呆れ果てたに違いない。バイデン圧勝を予測・報道して、トランプ氏へのネガティブ・キャンペーンを張りつづけた日米のマスコミ。
しかし、選挙が近づいても盛り上がっているのはトランプ陣営だけで、バイデン陣営の集会は熱気に欠け、「本当にバイデンは勝つのか」という疑念が大いに囁かれた。
2020年11月17日現在、選挙は、トランプ氏が歴代大統領史上最多の7276万票を叩き出しながら、歴史上最も多い票を獲得したバイデン氏が数字の上では上回っている。
アリゾナ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ジョージア……等々、各州で事前の世論調査やマスコミの予測を覆す“接戦”が繰り広げられたのである。
州によって事情は違うものの、通常はやむにやまれぬ理由があるものだけに許される郵便投票。「不正の温床になる」とのトランプ陣営の激しい抵抗にもかかわらずコロナを理由に認められた。
だが、懸念どおりのさまざまな事態が噴出することになった。 締切直前に大量の郵便投票が持ち込まれたり、監視人が目を離した隙に謎の投票カウントがおこなわれたとの訴えが飛び出したり、投票日以降に到着した郵便投票は集計するな、との裁判所命令が出されたり……挙げ出したらキリがない。
2020年アメリカ大統領選は混迷を極めたのである。 何といっても興味深かったのは、ウィスコンシン州だ。「遂に投票数が有権者の人数を超えた」と大騒ぎになったのだ。慌てて調べてみると、それは旧有権者名簿との比較であり、新しいものと比べると下回っていた。
しかし、それでも投票率を計算すると90・2%という“あり得ない数字”だったのである。 また集計システム「ドミニオン」がトランプ票をバイデン票に入れ換えて集計したという告発もあり、さまざまな点で大統領選は“歴史的”なものになった。
“悪=トランプ、善=バイデン”の一方的報道
私が刮目したのは、メディアの動向である。
いうまでもなく、選挙とは民主主義社会の根幹だ。中国のような独裁政権下ではあり得ない「国民の意思でリーダーを決めていくシステム」で不正は絶対に許されない。それは民主主義制度の崩壊を意味するからだ。 それを監視・報道するのがメディアの役目だ。
私は自分自身も長くその中に身を置いているので、どうしても「期待」を持っている。しかし選挙後、多くの告発や証言が相次ぐ中、マスコミが動かないことに驚かされた。
トランプ陣営に全ておんぶにだっこで「疑惑があるなら、どうぞ提示して下さい」という態度なのだ。 象徴的だったのは、報道陣とホワイトハウスのマケナニー報道官とのやりとりだろう。
「まだ証拠は出ないんですか?」との質問にマケナニー報道官は、「いろいろ出ています。間もなく発表します。
しかし、そういうものを探すのがあなた方の仕事ではないんですか?」と逆質問する場面まで現われた。
だが保守系のFOXニュースまで「不正の証拠が示されない限り、これ以上、会見をお伝えできません」と生中継はストップされた。 投票から2週間が経ち、まだ確定票ではないものの、バイデン氏が実に「7818万票」を獲得したことが判明する。
これまでの最多は2008年、初の黒人大統領となったオバマ氏獲得の6949万票だ。なんと、それを900万票も上回る“あり得ない数字”だったのだ。「何かがある」ことは間違いない。それでもジャーナリズムは動かなかった。
11月15日のワシントンDCでのトランプ支持のデモは規模も、整然とした様子も、見事なものだった。数十万人が集まったとされるデモの空撮写真は圧巻で「100万人デモ」とツイートする人たちが相次いだ。
だがこれを過小評価したい米国のマスコミは「数千人」あるいは「1万人超」としか報じなかった。日本の特派員も自分の目で確かめれば、その膨大な数に圧倒されただろう。しかし米メディアの通り報じる日本のマスコミは長年の慣習に従って、「数千人」「1万人超」とした。
夜、AntifaやBLMといった過激な集団によるトランプ支持者への暴行が頻発したが、それも「あちこちで衝突が生じた」という報道のみ。
“悪=トランプ、善=バイデン”という一方的報道は最後まで変わらなかったのである。これをジャーナリズムの使命の放棄といわず何と表現すればいいだろうか。
バイデンがこのまま勝利すると見た中国は息を吹き返し、尖閣、そして台湾に、露骨な脅しを見せ始めた。21世紀が、民主国家による世紀となるのか、それとも中国の世紀となるのか、その岐路だった米大統領選。
それだけに、メディアの情けないありさまを歴史に銘記しなければならないとつくづく思う。
(初出:月刊『Hanada』2021年1月号)