ジョー・バイデン次期米大統領は、国防長官にロイド・オースティン退役陸軍大将を指名した。オースティン氏は中東地域を管轄する米中央軍司令官として過激組織「イスラム国」掃討作戦の指揮を取った経験を持つが、インド太平洋地域の軍事情勢について造詣が深いとはいえず、米国にとって中国が最大の脅威となった今日において、国防長官として最適任か疑問と言わざるを得ない。
また、バイデン氏は「同盟強化」を口では唱えているが、米国の国内事情から国防予算を削減することが予測され、結果として重要な日米防衛協力計画が中止されることによる日米同盟の弱体化が懸念される。
消えた本命候補
当初、国防長官の最有力候補と目されたのはミシェル・フロノイ元国防次官であった。フロノイ氏は筆者が在米日本大使館の防衛駐在官であった1990年代後半、「4年ごとの防衛計画見直し」(QDR)担当の国防次官補代理だったので、何回か意見交換をしたことがあるが、極めて現実的かつ健全な判断をする女性で、ほぼ同時に発生する二正面戦で勝利できる米軍の建設を目指していた。
オバマ政権で国防次官(政策担当)となり、外国への軍事介入に消極的な当時のバイデン副大統領とよく対立したが、結果的にはフロノイ氏の判断が妥当であったことが多い。しかし、今回の国防長官の人選では、軍事介入を嫌う民主党左派の反対で落とされた。
代わりに指名されたのが黒人のオースティン氏である。バイデン次期政権の一連の閣僚人事を見ると、職務に適任であるか否かよりも性別や人種のバランスが考慮されているのではないかと感じざるを得ない。
オースティン氏は、インド太平洋地域で中国の軍事行動に対抗するのに最も縁遠い軍種である陸軍一筋の軍人人生を送ってきた。国防長官への指名に感謝する演説で、オースティン氏が「インド太平洋」ではなく、「アジア太平洋」という旧来の言い方をしたことも、インド洋と太平洋を一体としてとらえる新しい戦略概念を理解しているのか地域の同盟友好国を不安にさせる材料となる。