政法書記と政法委員会が支配しているのは警察だけではない。実は、中国全土の検察も裁判所(法院)も全て中央の政法委員会と各地方の政法委員会の命令に従う立場なのである。
その中国に公正な裁判や司法などあるわけがない。政法委員会が誰かを殺そうとすれば、警察が命令どおりにこの人物を逮捕し、検察が命令どおりにこの人物を起訴し、裁判所(法院)が命令どおりにこの人物に死刑判決を言い渡す。形式的な弁護士制度はあるが、弁護士自身が共産党員である場合は当然、政法委員会の命令に従う。党員でなくても政法委員会に逆らえない。逆らえば、その弁護士自身が政法委員会の命令で逮捕されるからだ。
新聞やテレビや雑誌社などのメディアも全て牛耳る
さらにもう一つ、共産党が完全に支配しているのが全国の新聞やテレビや雑誌社などのメディアである。「宣伝機関」と呼ばれるこれらのメディアを牛耳るのは、「党支部」と呼ばれる共産党組織であるが、その総元締めの党組織は共産党中央宣伝部だ。新聞社やテレビ局のトップは、各党支部の一員として中央宣伝部の命令に従って党のための宣伝工作を行うことを仕事としなければならない。
日本の場合に譬えてみれば、朝日新聞や日経新聞も産経新聞も、そしてフジテレビやテレビ朝日もTBSも皆、毎日のように共産党中央宣伝部の指示に従って共産党を賛美する社説やの記事を書き、中央宣伝部の指示に従って、本来なら伝えるべき真実を隠蔽するのである(ちなみに、現在の日本の朝日新聞の社説を読んでいると、この新聞社がすでに「党中央宣伝部」の命令に従って記事を書いているのではないかと思うこともあるが、これは不肖の私の錯覚だろうか)。
国内政治や宣伝だけでなくて、中国の外交も当然共産党の指揮下にある。外交の司令塔は、共産党の中枢部に設置されている「中央外事工作領導小組」であって「組長」は共産党総書記の習近平だ。外交部長(外務大臣)の王毅は所詮、党中央委員会の平の委員の一人として、習近平の部下のまた部下である。
各国の中国大使館も領事館も、「中央外事工作領導小組」のさらなる下部組織として党の指揮下にある。大使や領事館の領事は皆共産党員であって、大使館や領事館に設置されている党支部のトップや支部員として仕事をする。
そして党支部は所在国の中国企業や中国人組織のなかでもさらなる党の支部を作って活動する。いざというとき、外国にある中国企業や中国人組織は党の命令に従って中国の国益のために、その所在国の国益を損なう活動を行う場合もある。万が一、中国がどこかの外国と戦争になった場合、この外国にある共産党支部が一斉に動き出して攪乱・破壊などの活動に出ることも考えられる。
このように、中国の「一党独裁」とは、中国共産党がこの国の軍隊・警察・メディア・対外機構のすべてを完全に支配下に置いていることであるが、この一党独裁の末端組織は、外国であるはずのわれわれの近くにも侵食してきている。実に恐ろしいものである!(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)