中小企業神話の嘘
これまで、中小企業はさまざまな“神話”に守られてきました。
たとえば、中小企業の生産性が低いのは、大企業から搾取されているからだとよく言われます。しかし、この言い分にはあまり根拠がありません。
まず、搾取が激しいと言われる業種でも、その業種全体の生産性が低いという事実は存在しません。よく引き合いに出される建設業の小規模事業者の生産性は406万円で、全業種の平均342万円を大きく上回っています。
それに、製造業と建設業の創出している雇用は全体の28・1%。半分以下ですから、仮にこの2つの業種に大企業からの搾取が認められたからといって、それを中小企業全体の話に当てはめるのは無理があります。
日本の業種のなかでもっとも生産性が低いのは宿泊・飲食業ですが、この2つの業種は、大企業の搾取説は適用できません。
中小企業の生産性が低い理由を、大企業からの搾取だけで説明するのはかなり無理があるのです。 しかし、まだまだ中小企業に対して誤ったイメージを持っている人は多い。
「Hanadaプラス」に、「政府は零細企業に手を貸すべきではない」という趣旨の論文を書いたところ、「中小企業を潰していいと思っているのか」「机上の空論だ」と多くの批判的なご意見をいただきました。
日本人の多くは中小企業に勤めているので、心情としては理解できます。
しかし、縷々述べたように、小規模事業者は減って、中堅企業で働く人が増えたほうが日本、そして日本人のためなのです。
コロナ・ショックで小規模事業者の倒産・清算・廃業が加速すれば、これまで小規模事業者を守ってきた「中小企業は日本経済を支えている」「中小企業は日本の宝」といった神話の嘘が一気に明らかになります。
その時、これまでの中小企業に対する国民のイメージは一変するでしょう。
新たな「人参」が必要
もちろん、すべての小規模事業者が悪ではなく、一所懸命、成長しようと努力している会社は応援すべきです。
しかし、ほとんどの小規模事業者が補助金、節税目当てで、自助努力による改善はあまり見込めません。
小規模事業者が減り、雇用は増えるというのがここ20年間のトレンドですが、それでも、まだこれだけ小規模事業者が多いのは、政府の優遇措置による影響です。
これはあくまで私の印象ですが、日本人はお金に弱い面があるように思います。平成の大合併も、補助金という「人参」があったからこそ、あれだけ一気に進んだわけです。
中小企業も同じで、1963年に中小企業基準法を制定して、中小企業を優遇する政策に切り替えた途端、瞬く間に小規模事業者が激増していきました。こういった企業の約63%は税優遇と補助金が目当てで、生産性などは眼中にありません。
政府は、いままでの中小企業数を増やすという単純な政策を変えて、どの小規模事業者も中堅企業へと成長したくなるような新たな「人参」を用意するべきです。
今回のコロナ・ショックで、小規模事業者の数は減少することは間違いありません。そんないまこそ、政府には小規模事業者に偏った産業構造を変える政策を打ち出していただきたい。
このコロナ・ショックはそういう意味でも、日本を変えるチャンスなのです。