理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、計算速度などを競う世界ランキングで「4冠」を獲得した。旧民主党政権の事業仕分けで、「スパコンは2位では駄目か」と予算を大幅に削られ、2011年6月に「京」が出した毎秒8162兆回の記録の後、日本は中国に負け続ける状況が続いていた。富岳は既に新型コロナウイルス対策にも活用され、咳の飛沫をつい立てで防ぐ方法を解析した動画がテレビで紹介されている。
必要な輸出管理の徹底
富岳に使われた中央演算処理装置(CPU)は、ソフトバンクが傘下に収めた英アーム社のスマホ用CPUの基本設計を活用した。また、基本ソフト(OS)は、多くの人々が参加して作成されているLinux(リナックス)という汎用OSを使用しており、ユーザーが開発したプログラムがほぼそのまま利用できる使い勝手の良さが特徴とされる。
ここで注目しなければならないのは、スマホのCPU技術やOSなどの汎用技術が最先端のスパコンに使われていることだ。汎用民生技術も、最先端スパコンによるミサイルの軌道計算やミサイル発射基地の衛星画像の分析に利用できる。日米欧の先端技術を中国に流出させない輸出管理の徹底が必要だ。
先端技術のうち、リニアモーターカーの基幹技術である超伝導技術は、医療診断用の核磁気共鳴画像法(MRI)のほか、宇宙創成期のビッグバンを再現する国際リニア加速器(ILC)、国際熱核融合炉(ITER)、超伝導エネルギー貯蔵(SMES)などにも利用されている。次世代のスパコン技術として注目される量子コンピュータにも極低温の超伝導技術が使われる。
これらの先端技術が、中国、北朝鮮、イランなど核兵器を含む大量破壊兵器の開発国に流出しないように、経済産業省が輸出管理制度を設けている。大量破壊兵器の開発機関は「ユーザーリスト」に記載され、CPUや半導体、化学兵器に転用可能な化学製品、ミサイルに転用されるロケットエンジンや航空機の部品、超伝導体、チタン製ゴルフシャフトまで規制対象になっている。韓国から北朝鮮に流れた半導体加工用のエッチング液も対象品だ。