私の映画遍歴|秋山登

私の映画遍歴|秋山登

本誌で毎号映画レビューを連載していただいている、映画評論家の秋山登さん。新型コロナウィルスの影響で映画館は閉鎖、試写会もめっきり減ってしまい、新作レビューができないので、今回は『Hanada』プラスで秋山さんにご自身の映画遍歴を語っていただきました!


最初に覚えた監督の名は、ジュリアン・デュヴィヴィエだった。

たぶん小学生だったと思うのだが、この名によくお目にかかったからだ。なんたってデュヴィヴィエである。唇を突き出して、なおかつ舌をV凾ンそうな名前、子供にはおいそれと発音できるものではなかった。『巴里の空の下セーヌは流れる』(51)を特に覚えている。特にともいって、お話や俳優の顔までおぼえているわけではないが、パリの風景とどこかほがらかなムードが心に残っている。それと、あのシャンソン。ララララーラ、ラララ、ラーララ──。メロディーだけなら、たちどころに出てくる。

このころ、1950年代、ハリウッド黄金期の日本公開作はかなり見ている。いま思い浮かぶ作品は、ジョン・フォードの『黄色いリボン』など騎兵隊三部作、『アスファルト・ジャングル』 『アフリカの女王』 『雨に唄えば』 『第十七捕虜収容所』『ミスタア・ロバーツ』……。『マルタの鷹』 『素晴らしき哉、人生!』『風と共に去りぬ』など戦前の作品もこの時分に公開され、『第三の男』 『禁じられた遊び』 『道』など、ヨーロッパ映画も作品の評価などもちろん知らずに観ている。

日本映画だって、むろん定見などあるはずがない。

黒澤明作品は『虎の尾を踏む男達』のあと間があって、『酔いどれ天使』以降はリアルタイムで観ている。小津安二郎作品は『お茶漬の味』あたりから、木下惠介は阪妻が出ているというので『破れ太鼓』が最初だった。

成瀬巳喜男の『浮雲』は、もう高校生になっていたせいか、大人の世界をかいま見た気がして大いに感銘を受けた。ラストの回想シーンだったか、高峰秀子の純白のワンピース姿が忘れられない。いま、もし日本映画ベストワンを問われたら、『浮雲』と答えるかもしれない。

女優は覚えているけど、映画は忘れた

ここでちょっとお断りしておいたほうがよさそうだ。当時、映画は娯楽の王者だったとはいえ、小学生、中学生にしては観すぎではないか、と思う向きもあるに違いない。

私はその時期、地方都市の商店街で育った。同じ町内に洋画専門館があり、家から歩いて数分とかからないところに、市内の映画館の全てがあった。

洋画専門館には親のコネもあって、中学の1、2年ごろまで私は顔パスだった。『風と共に去りぬ』は、映写室の隣の小部屋で一人で観た記憶がある。それにあのころは、家の脇の電柱にポスターを貼ると、映画会社の人が入場券を束にして置いていった。

そうそう、思い出した。私が最初に覚えた女優の名は、ヴァージニア・メイヨだった。水着姿で寝そべるバカデカイ絵看板が洋画専門館の屋根の上にあって、毎日イヤでも目に入った。その映画は観たはずだが、とんと記憶にない。

映画は好きだけれど、しかし、私は映画少年ではなかった。小学校では野球に夢中で、中学では蹴球(サッカー)の選手だった。映画雑誌など読んだことはなかった。

高校二年の同級生に、大変な映画マニアがいた。彼は私に、よく悪魔の声を聞かせるのだった。
「おい、すごい奴がいるの、知ってるか」
私は午後の授業をサボって、いそいそと『波止場』へ向かうのだった。

『波止場』は、エリア・カザン監督の代表作で、マーロン・ブランドの出世作である。ブランドはすでに『欲望という名の電車』で注目されていたが、これで1954年のアカデミー賞主演男優賞をとって、演技派俳優の先頭を切ることになる。

「よかったろう」と同級生は言う。「ああ、革ジャンにオートバイ。かっこいいの、なんの」と私。「あのなぁ、そうじゃねぇんだよな。あいつの演技のだな(以下、略させていただく)」。

なに、いつものことで、言ってみれば、鉄兜の彼と新聞紙でつくったカブトの私が戦争ごっこをしているようなあんばいなのだ。彼とは高校卒業以来、会っていない。

『波止場』

映画を見るならひとりぼっちに限る

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