【図2】失業率と自殺者の関係
非常に重い内容ではありますが、自殺は社会の究極の苦悩が発現したものです。自殺者をとりまくミクロな環境が自殺のトリガーとなりますが、そのようなミクロな環境は、マクロな社会環境が背景となって生じているのがほとんどです。このため、マクロな環境を表す指標値と自殺者数の間には一定の相関関係が認めらます。そのなかで、自殺者数と最も相関性が高いのが失業率です。
図2は、失業率と自殺者の関係を示した散布図です。時系列が追えるように各年のプロットを線で結んでいます。
グラフを見ると、小泉政権と民主党政権の時代に失業率が高く、自殺者も高い数値を示しています。小泉政権や民主党政権のような効率至上主義の小さな政府の政策は、経済効率に基づいて事業を仕分けるものであり、失業者の発生を許容するものです。この2つの政権時に自殺者数がもっとも多かったことは、理に適っていると言えます。
一方、安倍政権のような金融政策に踏み込み、財政出動をコミットする適度に大きな政府の政策は、雇用機会を増やして職に就いていない国民に雇用を与えるものであり、失業率は低下します。事実、安倍政権は失業率を1980年代のレベルまで奇跡的に低下させ、民主党政権時代に約3万人/年いた自殺者を、2019年までに約2万人/年まで低下させました。
この差である約1万人という数字は、年間交通事故死亡者数(2019年:3,215人)の約3倍の値です。安倍政権は、すでに数万人の日本国民の命を救っているのです。
特に、経済・生活要因の自殺者数は約3,400人/年となり、民主党政権時代と比べて半減しました。これは、多くの人が職に就くことによって、人間の幸福度に大きな影響を与えるとされる「小さな幸せ」を実感できたことによるものと考えます。
野党は、安倍政権を「金持ち優遇の独裁政権」と宣伝していますが、実際には安倍政権こそ、「自ら命を絶つ究極の弱者に寄り添った真のリベラル政権」であり、究極の弱者を切り捨てて自殺に追い込む社会を作っていたのは民主党政権であったと言えます。
今回の新型コロナ危機への緊急経済対策においても、安倍政権は所得が急減した経済弱者を集中して救済する考え方を示しています。私たちが忘れてはいけないのは、失業率が1%上がると、自殺者が約4千人増える可能性があるということです。もちろん、マクロ経済には国民全体の経済活動が寄与するので、次には経済弱者以外に対する購買喚起対策が必要なことは言うまでもありません。
しかしながら、緊急経済対策の第1弾として、生命リスクの低減に最も効果的な雇用確保をしっかりとおさえたことは評価できると考えます。
ちなみに、IMFは新型コロナ危機の影響で2020年の世界の実質成長率をマイナス3.0%、日本の実質成長率をマイナス5.2%と予測。これは極めて深刻な値です。2009年の日本の実質成長率はマイナス5.4%でしたが、このとき失業率は1.1%増えています。自殺者が4千人増えるリスクは、けっして架空のものではありません。
民主主義国の日本がとるべき道
ワクチンの完成までに今後1年ないし2年が必要なことを考えれば、それまでの間に医療崩壊が発生しないように重症者の発生を抑制する必要があります(「感染者」の発生ではなく「重症者」の発生であることに注意)。このためには、現在行われている感染リスクの低減対策だけに頼るのではなく、感染者に対する早期治療薬の投与を加えた重症リスクの低減対策を充実させるべきです。
一方、この制約条件の下で経済的損失を最小化するよう経済活動の自粛制限の最適化が重要になります。集団免疫を獲得しない限り、自粛で感染率を一時的に低下させても、自粛を終了すれば感染率は再び上昇します。このため、事業タイプごとに自粛の効果を定量化し、その必要性を見極めることが重要です。
また、感染の伝播率(ウイルスの伝播しやすさ)を低減させる方策(「3密」の回避等)の充実も重要です。接触率(ウイルスとの接触の頻度)を上昇させても伝播率を顕著に低下させれば、感染率を抑制することができます。
いずれにしても、感染対策と経済対策は、一方を強引に推進すれば一方を崩壊させる【トレードオフ trade-off】の関係にあります。したがって、両者の死亡リスクを最小化するためには究極のリスク・ベネフィット分析が必要になります。
日本政府は、ウイルス学の専門家のみならず計量経済学の専門家を活用することで分野横断型のリスク評価を行い、国民とのリスク・コミュニケーションを通して、適切なリスク対応を意思決定すべきです。これこそが、民主主義国の日本がとるべき道です。
(初出:月刊『Hanada』2020年6月号)