「冬になると第2波の大きな波がくる」。怖い、怖いの“コロナの女王”は、国民の心配よりも、自分のテレビ出演がなくなることがいちばん心配なようで……
新型コロナはブラック・スワン
【新型コロナウイルス感染症 COVID-19】の【危機 crisis】を克服するにあたって極めて重要になるのが、感染症がもたらす様々な【リスク risk】を合理的な【リスク管理 risk management】を行うことで最小に抑制することです。
しかしながら、過去の原発事故や豊洲市場の問題と同様、今回のケースにおいても、リスク管理に関する無理解から発生する不合理な俗説が散見され、日本社会が不必要に混乱しています。何よりも危惧されるのが、経済リスク対応が非常に軽視され、「命をとるか金をとるか」という文脈で悪魔化されていることです。本稿では、新型コロナ危機に対して日本がとるべきリスク管理の考え方について論じてみたいと思います。
本論を展開する前に、まずはリスクとリスク管理に関する基本概念を簡潔にまとめておきたいと思います。
リスクとは、【ハザード=危機的要因 hazard】から【ペリル=危機的事象 peril】が生起することで発生する【損害 damage】の【期待値 expectation】のことです。特定の【生起確率 probability】に従うペリルの生起から損害発生までのシナリオは【リスク・シナリオ risk scenario】と呼ばれます。リスクは次式で定義されます。
リスク = ペリルの生起確率 × ペリルによる損害
リスク管理とは、リスクの【不確実性 uncertainty】をコントロールする意思決定プロセスのことであり、【リスク評価 risk assessment】とそれに基づく【リスク対応 risk treatment】で構成されます。
リスク評価は、事実に基づきリスクを定量化する科学的プロセスであり、リスク・シナリオを発見する【リスク特定 risk identification】、ペリルの生起確率と損害を分析する【リスク分析 risk analysis】、および期待値を算出して査定する【リスク査定 risk evaluation】という3つのプロセスに分けられます。
また、リスク対応は、リスク評価の結果と社会の意思の総合的判断に基づき対策を選択する意思決定プロセスであり、ペリルの発生を抑止する【リスク回避 risk avoidance】、ペリルの発生を抑制する【リスク低減 risk reduction】、リスクを分担して受容する【リスク分担 risk sharing】、リスクを受容する【リスク保有 risk retention】の4つの対策に分けられます。
リスク対応において社会の意思を反映するにあたっては、リスク評価を社会に十分説明して、リスク対応への社会の合意を形成することが重要となります。この合意形成プロセスを【リスク・コミュニケーション risk communication】と言います。
さて、ここまでは予測可能な不確定事象に対するリスク管理について説明しましたが、現実世界では9・11テロ、サブプライムローン危機、福島原発事故など、予測が不可能あるいは極めて困難で社会に破滅的な影響を与える「極めて稀で重大な不確定事象」が生起することがあります。ナシーム・ニコラス・タレブは、この事象を【ブラック・スワン black swan】と名付けました。このブラック・スワンが発生した場合には、その存在を前提とした徹底的な【危機管理 crisis management】を展開する他ありません。
矛盾した中国共産党の勝利宣言
ここでリスク管理の観点から、今回の新型コロナ危機を概観したいと思います。
1月20日に新型コロナウイルスのヒトヒト感染を認めた中国共産党は、感染爆発が起こっていた武漢を1月23日に封鎖しました。これは、中国国内での感染拡大というペリルの発生を抑止するリスク回避策です。
しかしながら、この段階ですでに多くの市民が武漢を離れていたため、中国全土に感染が拡大してしまいました。そこで中国共産党は、徹底的な監視態勢により市民間の接触を禁じることで感染を抑止するという第2のリスク回避策を展開しました。
その結果、中国の感染は概ね収束するに至り、中国共産党は高らかに勝利宣言しました。ただし、この勝利宣言には大きな矛盾があります。
中国共産党の発表によれば、感染者数は武漢が位置する湖北省を除いて10万人に0.5人程度(湖北省は10万人に100人以上)に過ぎず、集団免疫を獲得できているレベルではありません。それにもかかわらず、新規感染者がほとんど報告されないのは蓋然性が低すぎます。湖北省でさえ、集団免疫を獲得するには公式発表の数百倍の感染者が必要になります。その意味で、中国共産党は自国民を感染リスクに晒し続けていると言えます。
さて日本では、1月中旬に感染者の存在が判明しており、中国共産党が武漢を封鎖する前の段階で武漢から訪日した感染者が、日本各地にウィルスを運び入れたものと考えられます。
中国メディア・第一財経は、武漢発の航空機の座席数から、昨年12月30日~本年1月22日の期間における武漢からの訪日者は約1万8千人であったと推定しています。1月下旬に武漢から日本へ帰国したチャーター機内での感染率が1.4%であったことを考えれば、感染初期のこの期間に200人程度の感染者が訪日していた可能性があります。
1月中旬に東京の屋形船の従業員に感染させた武漢からの観光客や、1月中旬にバスツアーで運転手とガイドに感染させた武漢からの観光客がこれにあたります。しかしながら、中国共産党が情報隠蔽していたこの段階ではリスク特定すら困難であり、日本政府のリスク対応は不可能であったことは自明です。