致死率と死亡率の混同

【図1】世界各国の死者数の状況、日本は一番下(フィナンシャルタイムズより)
リスク査定の観点から見ると、最も多発している初歩的誤りは、感染の程度を「感染者数の人口比率」ではなく「感染者数」で査定していることです。当然のことながら、確率計算を伴うリスク評価において、ある集団の特性を査定する場合、その集団における特性保有者の比率である「感染率」を代表値とすべきです。たとえば、4月5日の段階で最も感染率が高い都道府県は、東京都ではなく福井県です。また、神奈川県は感染者の絶対数では全国3位ですが、感染率は13位です。
ちなみに、「浙江省の感染者数は、湖北省・広東省・河南省に次いで4位なのに、なぜ日本政府は湖北省と浙江省だけを入国制限したのか」という一部の政府批判も、同様の初等的誤りです。人口10万人あたりの感染者数は、広東省は1.2人、河南省は1.4人であり、浙江省の2.2人と比べて大きな開きがあります。日本政府が浙江省から優先的に入国制限したのは、極めて常識的なリスク低減策です。
もう一つの主要なリスク査定の初歩的誤りが、「致死率=死者数/感染者数」と「死亡率=死者数/人口」の混同です。
新型コロナ危機において一般市民が必要とするリスク査定の値は死亡率であり、致死率ではありません。日本は世界の主要国と比べて死亡率が極めて低く、致死率がやや高くなっています。死亡率が極めて低いのは、日本のリスク管理が機能している証左です。致死率がやや高いのは、必要な患者に医療リソースを充てるために、PCR検査をスクリーニングに使わずに偽陽性率を低く抑えたためです。
『羽鳥慎一モーニングショー』や『サンデーモーニング』は、ドイツの致死率が日本よりも低いとして、ドイツを絶賛して日本を批判しましたが、肝心の死亡率については、ドイツは日本よりも数十倍高い値で推移しています(4月中旬現在)。まさに、テレビ番組が日本の危機を煽るために無理やり致死率に着目してミスリードしている可能性があります。
英フィナンシャルタイムズは、世界各国の感染状況を比較するため、各国で死者数が10人を超えた時点からの死者数の時系列変動を1つのグラフに示しています(図1参照)。このグラフにおいて、縦軸は死者数、横軸は時間を表しています。
日本は、感染源の中国にとって最大の訪問先であり、武漢封鎖前に世界で最も多くの感染者が流入してかなり早期からウイルスの感染が始まっていましたが、それにもかかわらず、感染による死者数およびその増加割合は、世界の主要国のなかで最低レベルです。新規感染者数の伸びもゆるやかであり、4月中旬現在で感染爆発を抑止していると言えます。
なぜ日本は政府への評価が低いのか
この成功の要因として考えられる仮説としては、①重症化を防ぐ日本モデルが機能している②日本国民の公衆衛生に対する意識の高さが感染伝播率を下げている③日本国民は重症化を防ぐ抗体を有している(BCG説)などが挙げられます。
そんななかで、日本国民が政府のリスク対応を肯定的に評価しているかとなると真逆です。