鉄板の保守層が安倍批判に転じた理由
冒頭の読売の世論調査では、安倍首相の緊急事態宣言の発令時期について、「遅すぎた」は8割を超えた。全国的なマスクの品薄対策として布製マスクを全世帯に2枚ずつ配布する方針についても、「評価しない」が73.0%で、「評価する」は21.1%だった。
これまで安倍政権を支えてきたのは、国民の4割程度とみられる保守層だった。しかし、マスク配布にすら4人に3人が明確なノーを突きつけたということは、鉄板の保守層から安倍批判に転じる塊が出始めていることを示していた。
保守層は、何をきっかけに安倍政権への苛立ちを募らせ始めたのか。多くの永田町関係者が口を揃えるのが、2月はじめの中国人入国問題だ。
武漢の惨状が次々と明らかになっていた1月31日、アメリカのアザー厚生長官は、中国全土からの帰国者を14日間自宅待機させると発表、トランプ大統領は中国を訪問した外国人の入国を拒否する命令にも署名した。
また、イタリアの反応も素早かった。1月29日にイタリア国内初となる感染者が見つかったわずか2日後、イタリアの航空当局は、香港・マカオを含む中国全土からのフライトの乗り入れを禁止した。アジアから遠く離れた欧州諸国は、中国からの航空便を止めれば、中国との人の往来のほとんどを遮断することができるのだ。
イタリアは昨年3月、ヨーロッパでいち早く習近平の提唱する一帯一路に参加。中国との関係を急速に深めていた最中だったが、ジュゼッペ・コンテ首相に躊躇いはなかった。欧州諸国のなかで最も早く、最も厳しく中国との往来を遮断したのがイタリアだったのである。
ついに安倍支持者の怒りが爆発!
「G7仲間」の米伊が果断な措置を打ち出したのと比べると、安倍首相の対応は正反対と言っても過言ではなかった。日本政府は1月31日、湖北省との直接の往来を制限したが、「湖北省発行の旅券を所持する外国人」に限定した措置であり、裏を返せば、湖北省以外の中国人は自由に日本に入国することができた。
中国全土との往来を強硬ともいえる措置でストップしたアメリカやイタリアとは対照的な対応に、猛烈に反発したのが安倍政権を支えてきた保守層だった。
「なぜ中国からウイルスを入れ続けるんだ」
「日本人を殺すつもりか」
「なぜ安倍はトランプのような強い措置をしないのか」
「そんなに習近平を国賓で呼びたいのか」
そもそも保守層の多くは、中韓に対して毅然とした外交姿勢をとるという理由で安倍政権を支持していたから、大きな落胆は激しい怒りへと変わった。
ところが、である。世界に先駆けて中国との往来を厳しく制限したイタリアとアメリカでは、その後、何が起きたか。
イタリアで新型コロナウイルスの症例が初めて見つかったのは、1月29日のことだった。武漢からの中国人観光客2人の感染が判明した翌30日、コンテ首相は早くも6カ月間に及ぶ緊急事態宣言を発令した。
そして感染者発見からわずか2日後の1月31日、世界に先んじて中国からのフライトの乗り入れを中止したのだ。中国政府は即座に抗議したが、コンテ首相は意に介さず、「イタリア国民の皆さん、ご安心下さい。我々は状況を収束させました」と述べ、自らの迅速な対応に胸を張った。