WHO・テドロス事務局長の正体|久保弾(フリージャーナリスト)

WHO・テドロス事務局長の正体|久保弾(フリージャーナリスト)

WHOの異常なまでの中国擁護に、世界から批判が噴出している。 辞任要求の署名活動まで起きているテドロス事務局長だが、彼の「これまでの歩み」を辿ってみると、なぜここまで中国に肩入れするのか、その理由が見えてくる――。


WHOはじまって以来の“医者ではない”事務局長

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るうなか、頼りになるのは世界保健機関(WHO)……のハズだった。いま、WHOの媚中が世界各国から批判されている。

 新型コロナが武漢で発見されてから同市がロックダウンされるまでに八週間もかかり、その間、中国当局はネットで新型コロナに警鐘を鳴らした医師8名を処罰、深刻な状況を隠蔽しようとした。また中国は、当初「ヒトからヒトへの感染はない」と主張、WHOはそれをそのまま鵜みにし、世界に発表した。

 中国国内の感染者が増加し続けている一月下旬、WHOのテドロス事務局長は中国の対応をこう褒め讃えた。

「中国共産党の強力な指導の下で、中国の特色ある社会主義の優位を十分に発揮し、感染症との阻止戦に勝利する完全な自信がある」

「中国国内の感染者数が少ないことについて、中国に感謝しなければならない」

このテドロスの発言は、アメリカ、ヨーロッパの政治家から批判を受けた。 トランプ大統領はこう批判している。

「何千人もの命を救い、世界経済への打撃を防ぐはずだった。だがWHOは進んで、中国の言葉をそのまま受け止めた(中略)そして中国政府の対応を擁護した」  

麻生副総理も国会で、「ワールドヘルスオーガニゼーション(世界保健機関)ではなく、チャイニーズヘルスオーガニゼーション(中国保健機関)に直せっていうのが、わんわん出ていた」と述べている。

なぜ、WHOはここまで中国に傾いてしまったのか。それを理解するためには、トップであるテドロスを知らなければならない。

彼はWHO始まって以来、初めて医者ではない事務局長だ。エチオピアに生まれたテドロスは、共産党系の政治家として2005年から2012年にかけて保健大臣、2012年から2016年にかけて外務大臣を務めた。

エチオピアは、シルクロード経済圏構想「一帯一路」のモデル国家として、中国から巨額のカネが流れ込んでいるが、テドロスが外務大臣に任命されると、エチオピアはアフリカのなかで最も中国マネーを受ける国となった。事務局長になる以前から媚中政治家だったのだ。

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“もみ消し”は初めてではない?

余談だが、テドロスが感染症を「もみ消す」のは今回が初めてではない、という話もある。

WHOの事務局長選挙でライバルだったデイビッド・ナバロによれば、テドロスが保健大臣時代、エチオピアで過去3回にわたってコレラが流行した可能性があるが、テドロスは「ただの下痢症状」として処理し、隠蔽したという。

2017年、中国による強力なロビー活動の結果、WHOの事務局長に選出。事務局長になって最初の出張先は、やはり北京だった。

テドロスが事務局長に任命されてから、WHOへの中国の拠出額は上がり始めた。その額は、2016年は約23億円だったが2019年には38億円まで上昇。同じ期間中、米、露、日本の金額はほとんど変わっていない。

WHOが中国寄りになって、いちばん被害を受けているのは台湾だろう。 台湾は早い段階で新型コロナの人から人への感染を警告していたにもかかわらず、WHOからは無視された。

WHOの台湾排除は露骨だ。3月28日、香港の公共放送で、WHO幹部のアイルワードがテレビ電話でインタビューに応じた。そのなかで記者が「台湾のWHO加盟を再考するつもりはあるか」と問うと、アイルワードはしばらく沈黙し、「質問が聞こえない」。

もう一度同じ質問をされると、一方的にテレビ電話を切った。記者が電話をかけ直し、また同じ質問をすると、「中国についてはもう話した。中国のすべての地域で順調に進んでいる」などとはぐらかした。

それだけではない。テドロスは4月8日の記者会見で、3カ月前からインターネット上で人種差別的な中傷を受けていると明らかにし、「攻撃は台湾からきた。台湾の外交部は知っていたが、何もせず、むしろ私を批判し始めた」と発言、記者たちを驚かせた。

台湾外交部は翌日、「いわれのない主張だ」として抗議し、謝罪を求める声明を発表した。 麻生副総理の言うように、WHOは中国の代弁をするCHO(中国保健機関)に成り下がったらしい。

世界の健康は、WHOが発表する正しいデータとガイドラインに頼るところが大きい。中国が恣意的にデータを操作すれば、世界中の人々が命を落とすことになりかねない。

WHOの組織を「健康」にすることが急務だ。

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