自由社に対する検定意見の数が突出して多いことは歴然としている。自由社の教科書に付けられた検定意見405件は、検定意見総数733件のうちの55%にのぼる。
おそらく、これだけを見れば、普通の人は「自由社はなんて間違いだらけの杜撰な教科書をつくっているんだろう。これじゃあ、落とされても仕方がない」と思うはずである。検定に関与した文科官僚も、このデータを持ち回って、大臣や与党の政治家たちに、「自由社の不合格は仕方がなかったのです」と説明して回っている。
しかし、始めに結論を言えば、「検定意見」の数の多さは「間違い」の多さを意味しない。両者は全く別のことなのである。(論証はあとでおこなう)
「自由社教科書は間違いだらけ」という印象操作は絶大な効果を挙げている。2020年3月10日、参議院文教科学委員会で日本維新の会の松沢成文議員は、自由社の「一発不合格」について、萩生田光一文部科学大臣に質問した。やりとりの中で、文科大臣は、次のように発言している。
「誤字や誤植とおっしゃいますけれども、やっぱりどこの会社も、申請段階で、もう本当に目を皿にして、そういうことのないように、子供たちが使う教科書をつくるがゆえに、誤字脱字や誤植がないように努力していることも、私は一定必要なんだと思います」
ご覧のとおり、文科大臣は官僚から、まさに上に述べた通りの説明を受け、それを信じ込んでいるのである。ここで文科大臣が語っていることの裏側の意味は、「自由社は誤字・誤植・脱字をチェックもせず、杜撰極まりない教科書なのだ、だから一発不合格は当然なのだ」という事実認識である。
この文科大臣の事実認識は正しいか?
明白な誤りである。次のデータが一発でその誤りを実証する。
文科省の教科書検定において、個々の「検定意見」は「教科書検定基準」(正式名称は、「義務教育諸学校教科用図書検定基準」という)のどれかの項目に根拠をもつ。検定意見の表の右端には「検定基準」という欄が設けられており、2-(1)、3-(4)などと書かれている。これは、個々の検定意見の根拠となる検定基準の項目を示している。
例えば、3-(2)は「図書の内容に、客観的に明白な誤記、誤植又は脱字がないこと。」となっている。もし、萩生田文科大臣の言うとおりなら、405箇所の検定意見について「検定基準」欄に3-(2)と書かれているものが何件あるかを調べればよい。
そういう観点から自由社に付けられた検定意見405件を分類すると、次の【図表2】のようになる。
萩生田文科大臣の発言から伺える「自由社は誤記・誤植だらけ」というイメージに全く反して、誤字・脱字はわずか29件に過ぎない。文科大臣の発言は事実に合致せず、その事実認識は明白な誤りである。
その他、単純な項目を見てゆくと、漢字表記の適切15件、誤り・不正確が59件で、誤り・不正確という指摘の中には、反論書で反論したものもあり、そのすべてが妥当なわけではない。
重要なことは、これらの単純ミスをいくら足し合わせても「一発不合格」ラインである377箇には到底到達しないということである。「自由社は誤記・誤植の校正すらしていない杜撰な教科書である」とイメージ操作は完全なデマなのである。