腐敗の特徴②
そこで出てくるのが中国流腐敗文化のもう一つの特徴だ。汚職は何も権力者一人でやっているものではなく、むしろ家族ぐるみの汚職が多い、ということである。
たとえば前述の周永康の場合、本人の汚職には妻の賈暁曄と息子の周濱が深くかかわっていた。周永康の「収賄代理人」となっているのは妻の賈暁曄であり、息子の周濱は別途、父親の権力を笠に着て不正の蓄財に励んでいた。郭伯雄の場合、妻の何秀蓮はもとより、息子の郭正鋼・浙江省軍区元副政治委員、妻の呉芳芳もその共犯者である。
そして、ここに名前が挙がっている全員が現在、刑務所に収監されている。中国ネット民の皮肉な言い方からすれば、「彼らはいま、刑務所で毎日の一家団欒を楽しんでいる」。
こうした家族ぐるみの腐敗は、中国で「全家腐」と呼ばれている。夫が幹部なら、その妻と子供がグルになって一家総出で腐敗行動に走るのは中国では普通だ。時には直系家族だけでなく、幹部の親族一同、あるいは幹部の妻の親族一同が皆、幹部一人の権力に群がって甘い汁を吸うことはよくある。つまり、腐敗汚職が一家総出の「家業」となっているのだ。だからこそ、金額がとてつもなく大きくなるのである。
腐敗が一家総出の「家業」となる
中国の腐敗文化の最大の特徴が、中国人自身のいう「全家腐」であることがよく分かる。そして、政治家による家族ぐるみ腐敗、汚職の一般化は、中国独特の現象といえよう。
たとえば日本の場合、前述の田中角栄が起訴されたとおりに5億円の収賄を実際に行ったとしても、それは政治資金を作るための収賄であって、本人の家族のための収賄ではない。田中角栄の家族に関していえば、角栄に「三つ約束」をさせたことで有名な正妻のハナさんは、夫人としての慎ましさこそが賞賛されており、角栄の権力を利用して何らかの利益を得ようとする人では決してなかった。 愛嬢の眞紀子さんにしても、父親の権力を利用して「収賄」をしたというような話は一切聞かない。当時では日本一の権勢を誇った田中角栄の一家は、どう考えても中国流の「全家腐」とは無縁である。
ではなぜ、中国において、「全家腐」が突出するのか。なぜ中国人の家族は、汚職に一家揃って手を染めるのか。悪人幹部の一人ひとりではなく、その幹部の家族全員が揃いも揃って悪人となって悪事を働くようなことが、なぜ普通のこととなっているのだろうか。
実は、まさに上記のような疑問への回答にこそ、中国人の道徳観と行動原理を理解するための最大のカギがある。それについて、本欄の次回で読者の皆様に克明に解説する。(初出:月刊『Hanada』2021年1月号)