では、伊藤氏のその後の足取りはどうだったか。
ホテルから出た当日、4月4日、伊藤氏は自宅近くの産婦人科イーク表参道を受診し、アフターピルの処方を受けている。
これからご紹介するカルテは、全て山口氏側の請求によって開示されたものだ。しかも今年7月8日の公判でカルテを提示された伊藤氏は、自分の証言と食い違うカルテは全て医者の誤記だと主張している。
驚嘆すべき言い分だが、私は医師のカルテを事実と見做して以下の記述を続ける。イーク表参道の診療録によれば、伊藤氏は医師に「coitus(性交)AM2~3時頃、コンドームが破れた」と申告をしている(反訴状37ページ)。
彼女はこの時、避妊を真剣に考えていたはずであり、産婦人科ではできるだけ正確な性交時間を申告したと考えられる。そしてこの時、伊藤氏が申告した性交渉時間帯の午前2~3時頃は、山口氏が証言している時間帯と完全に一致する。
伊藤氏は、なぜのちに主張する5時という性交時間を、当日の婦人科受診時に偽ったのか。伊藤氏による合理的な説明はない。
また、のちにDRDを盛られたと主張しているにもかかわらず、伊藤氏はこの時、尿検査を求めていない。それどころか、ドラッグ検査は毛髪で数カ月可能なのに、伊藤氏はそれも受けていないのである。
伊藤氏の著書『Black Box』には捜査員の発言として、覚醒剤の常習犯でもなければ頭髪に残らないので検査しても意味がないと言われたとある。
捜査員が検査は無意味だと言ったというのはちょっと考え難いが、仮に捜査員にそう言われても、伊藤氏にドラッグを盛られた確信があれば、検査を強く要求するだろう。万に一つでも確かな証拠が挙がれば、事は一気に解決できるのだ。
「君は合格だよって…」態度急変の理由とは?
一方、膝を脱臼し、「あざ、出血している部分があり、胸はシャワーをあてることもできないほど」の暴行を受けたのに、伊藤氏は警察に駆け込んでいない。
強姦の有無を証明することは難しいが、あざ、出血、膝脱臼は一目瞭然であり、傷害罪の逮捕状ならば速やかに執行されたに違いない。のちに「殺されるかと思った」とすら述懐する暴行を受けて、なぜ伊藤氏は警察に訴えなかったのか。
それどころか、あざと出血と脱臼を負わせた凶悪犯であるはずの山口氏に宛てて、伊藤氏は4月6日にメールを出している。
「山口さん、お疲れ様です。無事ワシントンへ戻られましたでしょうか? VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです」
ところが伊藤氏は、『Black Box』によれば4月9日、「強姦の被害」を警察に届け出る。そして、その5日後の伊藤氏から山口氏宛のメールは次のようなものだった。
「お疲れ様です。この前はどうしたらいいのかわからなくて、普通にメールしたりしてしまいましたがやっぱり頭から離れなくて。この前気づいたらホテルにいたし、気づいたらあんなことになっていてショック過ぎて山口さんに罵声を浴びせてしまいましたが、あの時言ってた君は合格だよって、いうのはどういう意味なんでしょうか? 山口さんのこととても信頼していたので…。連絡いただけますか? 忙しいのにすいません」
警察に届け出、「ショック」メールを送る。一体、態度急変の理由は何か?
実はこの間、山口氏から伊藤氏へのメールがない。伊藤氏にすれば、山口氏と性交渉までしたのに何らの連絡がないまま5日、10日と経ってゆく。
邪推すれば、このまま口約束だけでごまかされては堪らないとばかり、いざという時のために警察に届け、山口氏には被害者であることを匂わせつつ「合格だよってどういう意味か」と、仕事を引き出せるか探りを入れたのではないか。
もちろん、山口氏が伊藤氏の証言どおりの凶悪犯罪者ならば、こんなメールを出す余地はない。伊藤氏はすでに警察に被害を届け出ているのだ。暴行、強姦致傷の事実をメールで突き付け、ごまかそうとする山口氏の回答を警察に見せれば、逮捕状発行の充分な根拠になり得たろう。
このあと、警察に勧められ、伊藤氏は4月17日にはまつしま病院(婦人科)を受診した。その際、伊藤氏は「最終月経4月9日~」と自己申告している。
緊急避妊ピルの服用後数日で月経様の出血(消退出血)があれば避妊に成功した、と判断される(伊藤氏が処方されたピル「ノルレボ」についての産婦人科医師の所見)。だからこの時、まつしま病院では妊娠検査は行ってさえいない。
また、外傷のないことも確認された。以上も、全て山口氏の反訴状が初めて明らかにした事実である(24ページ)。
偽りの妊娠メール。そして、刑事告訴
外国特派員協会での記者会見