【読書亡羊】政治が「稼げるコンテンツ化」する時代への処方箋とは  木下健、オフェル・フェルドマン『令和日本の政治は「感情」で動く』(ミネルヴァ書房)|梶原麻衣子

【読書亡羊】政治が「稼げるコンテンツ化」する時代への処方箋とは 木下健、オフェル・フェルドマン『令和日本の政治は「感情」で動く』(ミネルヴァ書房)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


同意強要か優しい口調か

あるいは参政党の神谷代表。『ドラゴンボール』や『ワンピース』など、人気漫画の引用を盛り込んでくるところは支持層に合わせて好反応を狙っているのか、本人が好きなだけなのか定かではない。

神谷代表の語り口には「問題は財務省、ね」「もう日本では工作が進んでるんですよ、ね」と〈共感を得るための付加疑問文(tag question)の「ね」が頻繁に用いられて〉いる。これは同意を強要するかのような押しつけがましさも感じるが、本書では〈優しい口調〉と分析されている。

加えて〈二項対立を用い、歴史を神話化する愛国心を刺激するポピュリストの言説〉を用いるなど、緩急織り交ぜた演説を展開しているようだ。

また、安倍総理の印象的な発言が〈聖帝語録〉としてウェブ上にまとめられていることも本書(の注釈)で知った。専門書ではあるが、小ネタも豊富で、隅々まで見ると面白い情報を幾つも見つけることができる。

正直に告白すれば本書の専門的な分析部分は門外漢にはさっぱりなところもある。また、「感情」で動かされる側の有権者への言及や分析ももっと読みたいところではある。

とはいえ、何よりも膨大な映像、動画がウェブ上にあふれる時代において、その貴重な分析であることは間違いない。立花氏の演説動画まで視聴し、文字起こししなければならない苦悩がしのばれる部分もあるが。

ユーモアとしての川柳も分析

第10章では趣向を変えて、朝日新聞・読売新聞に掲載された読者投稿の「川柳」を分析している。日本は他国に比べて政治的ユーモアの表現は少なめであると言う。

その文化的・歴史的背景にも迫っているが、その中で「茶化し」「もじり」を多用し風刺を展開する川柳は、確かにその時々の読者の関心を表している。

本書ではいくつかのテーマごとに朝日と読売、それぞれに掲載された川柳を引用しているが、「その時」の文脈や出来事がわからなければ理解不能なものも少なくない。

例えば〈2から5へ成績表なら文句なし〉という朝日新聞2023年1月28日掲載の川柳は、コロナウイルスが感染症法の2類から5類に格下げされたことを示している。感染時の外出制限などもない5類への格下げに対する不安を、この短い字数で表しているのだ。

川柳は、政治漫画のように短命である。つまり、時間が経つにつれて川柳が言及した文脈は忘れられ、川柳のウィットに富んだ特徴は失われてしまう。これが、川柳の持つ一時的と言える性質である。

関連するキーワード


書評 読書亡羊 梶原麻衣子

関連する投稿


【読書亡羊】死せる安倍、生ける自民党を走らす  御厨貴・芹川洋一『令和政権論』(日経プレミアシリーズ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】死せる安倍、生ける自民党を走らす 御厨貴・芹川洋一『令和政権論』(日経プレミアシリーズ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている  林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている 林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊  松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊 松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは  カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【読書亡羊】政治が「稼げるコンテンツ化」する時代への処方箋とは  木下健、オフェル・フェルドマン『令和日本の政治は「感情」で動く』(ミネルヴァ書房)|梶原麻衣子

【読書亡羊】政治が「稼げるコンテンツ化」する時代への処方箋とは 木下健、オフェル・フェルドマン『令和日本の政治は「感情」で動く』(ミネルヴァ書房)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】米軍危険視は一種の魔女狩り|藤原かずえ

【今週のサンモニ】米軍危険視は一種の魔女狩り|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】異常気象は毎年ある|藤原かずえ

【今週のサンモニ】異常気象は毎年ある|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】失敗に終わった米中首脳会談だが……|藤原かずえ

【今週のサンモニ】失敗に終わった米中首脳会談だが……|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】斎藤幸平氏の陰謀論と正論|藤原かずえ

【今週のサンモニ】斎藤幸平氏の陰謀論と正論|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。