【読書亡羊】中身スカスカショート動画に負けない良質「政治コンテンツ」化のススメ  澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)|梶原麻衣子

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


秘書給与は高いか安いか

筆者(梶原)のような編集者・ライターが国会議員取材をする場合には事務所に連絡し、秘書に取り持ってもらうことになるのだが、議員が公費で雇える秘書は三人までと決まっている。

永田町の議員事務所だけでなく、地元選挙区にも事務所を構え、秘書を置かなければならないが、三人より増えた場合には私費で秘書の給与を払わなければならない。

本書が紹介する秘書の業務は多岐にわたる。国会の秘書なら平日の永田町での活動をPRしたり、地元や関係団体からの陳情を捌いたり、議員の代わりに委員会や勉強会に出席する必要がある。

地元は地元で次の選挙のために地域を回り、顔をつないでおかなければならない。週末地元に戻ってきた議員の日程管理や飲み会のセッティングも地元秘書の仕事だという。

このあたりは「まあそのくらいはやらないといけないだろうな……」とある程度想像がつくのだが、秘書給与額を見るとその印象は変わるかもしれない。

政策秘書は初任給44万円。第一秘書が42万円、第三秘書が33万円。手当やボーナスもあるというが、これを高いと見るか安いと見るか。和気あいあいとした働きやすい事務所なのか、議員からどやされるブラックな環境なのか、などで、かなり違ってくるのではないか。

本書にはこんな話もある。

議員によるハラスメントで秘書が辞めるというパターンもあります。秘書を常に募集している、ブラック気味な事務所は永田町では有名になります。「あの事務所は一人だけずっと定着していて、ほかの秘書はコロコロ変わるね」などの噂話もすぐに広がる、狭い世界なのです。

政治との「いい距離感」のために

「元衆議院事務総長」という聞きなれない肩書の向大野新治さんや、異業種から官僚になった霞いちかさんとの対談も興味深い。

様々な角度から光を当て、「政治って面白い!」を読者と共有しようという本書。内容はいたってまじめだが、楽しませようという工夫にあふれている。

〈個人的な見解ですが、国会議員の皆さんは、権力の座から降りると「油気」が抜けます〉の一文には思わず吹き出してしまった。

総理経験者に複数取材した経験を持つ筆者(梶原)としても思い当たる節があり、総理在任中と退任後では確かに「本人や周りが発する空気が違う」のである。あの安倍元総理でさえ、退任後は張り詰めた糸が緩み、「ゆったり」した雰囲気を醸していた。

澤田氏の読者への強い思いは、終章に込められている。なぜ政治をエンタメ的な切り口からでも、ウォッチし続ける必要があるのか。

そもそも自分の生活と直結する政治、議員や秘書の人生を左右する選挙というイベントや、いわゆる政局報道もそれ自体が人間ドラマであり、ハマると目が離せない魅力があることは間違いない。

リアルに起きていることだからこそ、SNSでの各陣営の支持者の対立も熱を帯び、時に分断にまで発展する。しかも現状では本質的な政治批評よりも、中身空っぽのショート動画で誰かを貶めたり過剰に持ち上げたりするような「瞬間の快楽」をもたらすものに人々の意識が向けられている。そのため、ハレーションも大きくなる。

そうではない政治の楽しみ方の一つとして、本書は政治を語ることをタブー化せず、各党のスタンスや議員の発言の背景を丁寧に説明することによって「コンテンツ化」するのも一つの方法だとする。ここには澤田氏の、メディアの「中の人」であるがゆえの反省、自戒も込められている。

2026年2月の衆院選で妙に盛り上がった「政治の推し活化」についても、澤田氏は応援する議員や政党などの対象があってもいいが「いい距離感」を保つことの重要性を説いている。これには全く同感で、ましてや論評やオピニオンを発信しようという立場であれば、なおさら「距離感」には敏感であるべきだろう。

一方、もともと議員や国会に距離があった人にとっては、読めば「距離感が縮まる」一冊でもある。

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書評 読書亡羊 梶原麻衣子

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