ネタニヤフに乗せられたトランプ
2026年2月末からイランを攻撃しているアメリカとイスラエル。
当初の目論見が外れたためか、6月に入ってトランプ大統領は電話会談でネタニヤフ首相に対し「今や誰もがお前を嫌っている」「完全に狂っている」「俺がいなければお前は刑務所に入っていた」などと罵倒したという。
そもそも「コストに見合わないから戦争嫌い」と評されていたトランプ大統領がイスラエルとともにイラン攻撃に乗り出したのは、ネタニヤフ首相から「今イランを攻撃すればイランの体制を転換できる」「イランの最高指導者であるハメネイの首を取るのはたやすい」「そうすればイランの非核化もできる」などと囁かれたためではないかと言われている。
ネタニヤフ首相のイスラエルに騙されたとようやく気づいた様子のトランプ大統領だが、こうした状況に至る前からアメリカ国内でもイラン攻撃に反対する声は上がっていたようだ。MAGA派と言われるトランプ支持層の中にも、「中東の戦争などにかまけず、アメリカのことだけを考えると言っていたから支持していたのに!」とイラン攻撃に反対する声も出てきているという。
2023年のパレスチナ・イスラエル戦争開始以降、アメリカとイスラエルの関係には注目が集まっていた。バイデン政権も、テロ攻撃を受けたとはいえガザを焼け野原にしようとするイスラエルに対し、さほど厳しい姿勢を取ってはいなかった。トランプ政権になってからは「アメリカはなぜここまでイスラエルを支援するのか」との疑問が、多くの人の頭に浮かんだことだろう。
まさにその疑問がそのままタイトルとなった一冊が、佐藤雅哉『アメリカはなぜイスラエルを支援するのか―揺れ動くまなざしの歴史―』(名古屋大学出版会)だ。
アメリカとイスラエルの特別な関係
本書はアメリカとイスラエルの関係について、宗教的なつながりから映画などの文化、国際情勢や国家戦略など様々な観点から検討している。膨大な内容のため、特に印象的だった部分に絞ってご紹介したい。
さまよえる民だったユダヤ人が約束の地に建国したイスラエルと、新大陸の発見・入植により建国したアメリカを重ねてみる「二つの約束の地」といった見方や、聖書の記述に基づき「キリストの再臨による救済にイスラエルの民が大きな役割を果たす」と考える一部のキリスト教徒の解釈により、アメリカがイスラエルを見つめるまなざしは他国からのものとは違う意味を帯びているという。
今、トランプ支持者、さらにはイスラエル支持者とも重なるアメリカのキリスト教の福音派はこうした思想を特に強く持っているようだが、だからと言ってイスラエル建国以降、福音派のみがイスラエルを支持してきたわけではない。
2000年代から2010年代にかけては、イスラエルは「ゲイも従軍できる国」として〈LGBTの権利に関する地域的なパイオニア〉であると、アメリカからも評価されていたという。
現在のアメリカ・イスラエル関係では福音派が主役になっているが、彼らは中絶に反対し、LGBTを子供に学校で教えることを許さないなどの姿勢で知られる。となると、「LGBTのパイオニア」的なイスラエルのイメージと、福音派の考えとの間にはズレがあるように思える。
しかし本書によれば、1980年代に入ってイスラエルの軍事的強硬派の側面に対する批判がアメリカで高まると、リベラル派がイスラエル支援から後退。そこへ徐々に福音派を含むアメリカの保守勢力が存在感を増す余白ができた。イスラエルもアメリカも世論は一枚岩ではなく、お互いに都合のいい面を見て評価し、つながってきた節がある。
また、イスラエル国内でもネタニヤフ政権の一角をなす極右政党はそもそも「LGBTのパイオニア」的な自国のイメージをよく思っていなかった。となれば現在のトランプ政権・ネタニヤフ政権の結びつきはアメリカとイスラエルの関係というだけでなく、「反リベラル」的な要素を持つトップ同士の連携と見ることもできるのかもしれない。

